株式会社YTGATE(東京都中央区)は2025年12月9日、株式会社JTB(東京都品川区)に提供した「決済承認率改善サービス」の効果や活用状況をまとめた事例記事を公開したことを明らかにした。旅行大手のJTBが高額決済の多いEC取引において、承認率を高めながら不正利用を防ぐ仕組みを導入した。
YTGATEは、カード会社ごとのデータを可視化し、承認状況や否決理由を分析できる同サービスを通じて、両社がオンライン取引の安全性と顧客体験の向上を両立させる取り組みを支援している。
JTB側では、インターネット販売が拡大する中で、クレジットカードの不正利用が増加し、正常な取引まで否決されるケースが課題になっていた。YTGATEのサービスは、そうした誤否決を減らし、カード発行会社とのやり取りを迅速にする手段として採用された。不正抑止と収益機会確保を両立できる点が導入の主な理由であり、JTBが抱えていたデータ不透明性を解消する狙いがある。
EC販売拡大で決済の最適化が課題に
旅行業界では、パッケージ旅行や宿泊商品など高額取引が多い。特にオンライン予約ではクレジットカード決済が主流となり、本人認証やセキュリティ要求が厳格化している。JTBもEC販売の拡大を進めるなかで、承認率低下による機会損失が問題となっていた。
YTGATEが提供する「決済承認率改善サービス」は、カード発行会社(イシュア)別に承認動向をリアルタイム表示し、否決理由を解析する。これにより、JTBは改善サイクルを短縮し、収益性と顧客体験の両立を図っている。
YTGATEは2023年に設立された決済コンサルティング企業で、決済効率化やデータ可視化を支援している。同社はPCI DSS準拠やISO27001認証など、国際的な情報セキュリティ基準を満たしており、プライバシーマークも取得済みだ。不正利用防止とEC収益最大化の両輪で、加盟店への支援拡充を進める方針を掲げる。
市場では不正利用被害が過去最高水準
近年、国内のクレジットカード不正利用被害は増加傾向にある。一般社団法人日本クレジット協会のまとめによると、2024年のEC取引における被害額は555億円と過去最高を記録した。こうした状況を受け、2025年3月に改訂された「クレジットカード・セキュリティガイドライン6.0」では、本人認証強化(EMV 3Dセキュア)やWeb脆弱性対策が強化項目として追加された。
旅行や小売など、高額取引が多い業界ほど誤判定や否決による影響が大きく、決済データの分析・可視化は喫緊の課題とされる。JTBとYTGATEの取り組みは、この流れに即した企業連携の一例となる。
不正利用対策を怠ると、加盟店契約の解除や信用損失といったリスクが指摘されており、EC事業者にはガイドライン遵守が求められている。カード会社・決済代行会社・加盟店が一体での対策を構築することが、今後の標準モデルになるとの見方が業界内で広がっている。
YTGATE創業者の狙いと事業展開
YTGATEの代表取締役である高橋祐太郎氏は、大手決済代行会社での10年超の経験を経て2023年に同社を創業した。高橋氏は「不正利用増加によって正規取引が否決される構造を変えたい」とし、承認率向上を社会的課題と位置づけている。
従来の不正対策は売上に直結しにくいため、企業が後回しにする傾向があった。同社はデータ解析を軸に、事業者の判断を可視化することで、経営上のリスク削減と収益改善の両立を実現しようとしている。
YTGATEの強みは、決済構造の可視化を通じた「負の取引コスト削減」にある。不正抑止のみに偏らず、承認率改善による収益増を同時に狙う点が特徴だ。決済データのリアルタイム解析を実現する仕組みを提供し、顧客体験の改善とシステム運用コストの削減を両立する。業界関係者の間では、決済改善を主軸に掲げるスタートアップとして注目が集まっている。
EC・フィンテック領域で連携が進む可能性
旅行大手のJTBによる導入を契機に、同様の課題を抱える業種への展開も見込まれる。EC、チケット販売、宿泊予約などでは、決済審査の精度とスピードが競争力を左右する要因になっている。YTGATEは、不正抑止と顧客利便の両立が求められる環境下で、国内外の事業者との協働を広げる考えだ。
今後、オンライン決済の高度化が進むなか、カード承認率の改善は企業の売上回復策としても注目される。今回導入した仕組みが基準となり、同様の動きが拡大する可能性がある。
一方で、セキュリティ基準の改定対応には継続的な投資が必要となり、中小事業者では導入コストが課題になる。データ分析基盤を共同利用する仕組みや、加盟店連携によるリスク共有モデルの構築などが今後の焦点となりそうだ。
決済インフラ再構築の波、業界変革促すか
国際基準であるPCI DSSへの準拠やデータ非保持化といった要件は、各加盟店や決済代行会社に実装負担を課している。加えて、AI不正検知や認証アシストなどの導入も進んでおり、決済プロセス全体のデジタル化が加速している。
専門家の間では、決済事業者がデータを基盤として各社の承認傾向を「見える化」し、金融機関と連携する形で精度を高める事例が今後増えるとの指摘もある。YTGATEとJTBの取り組みは、業界全体の取引最適化を後押しする動きとして注目されている。
日本市場における決済技術の変革は、データ活用とガバナンス両面の成熟を示す指標となる。不正抑止と承認率改善を両立させるアプローチが定着するかどうかが、ECの信頼性向上と国際競争力強化の鍵となるだろう。