株式会社クーチ(東京都杉並区)は、東京・新宿の小劇場「新宿シアターブラッツ」の運営業務を有限会社馬力屋から引き継ぐ。2026年5月に新体制でリニューアルオープンすることを明らかにした。これに先立ち、同劇場は2026年4月6日から約1か月間、改修工事のため休館する。
クーチは今回の承継を、舞台芸術分野での新規事業拡大の一環と位置づける。新体制では、客席の固定化と楽屋設備の拡張を中心に改修を実施し、観客と創作者双方にとって快適な環境を整えるとしている。劇場名は地域で培われた認知度を尊重し、従来通り「新宿シアターブラッツ」を継続使用する。
客席改修と楽屋増設で環境を一新
リニューアルでは、まず観劇中の快適さを重視し、従来の可動席を固定椅子に変更する。座席配置を再構成し、視界や音響環境を改善することで、集中して舞台を楽しめるようにする。 また、出演者やスタッフが本番準備に集中できるように、楽屋エリアを拡張。使い勝手を高める構造とし、演出規模の多様化にも耐えうる設備へ更新する。
施設全体の改装に合わせ、劇場ロゴと公式サイトも刷新する。新デザインは2026年5月から正式使用される予定だ。クーチはこれらの更新を「小劇場文化の継承と現代的な利用環境の両立」と位置づけ、若手劇団や映像企画など多用途での利用を視野に入れている。工事後はリニューアル記念行事を予定しており、稼働初年度となる2026年度は貸館利用の需要増が見込まれる。
馬力屋からの「バトン」25年の節目に
シアターブラッツは2000年7月、有限会社馬力屋が開設した小劇場だ。客席数は100前後で、新宿エリアにおける実験的・市民参加型の演劇文化の拠点として知られてきた。草創期には小劇場の存在が広く認知されておらず、地域に根ざした運営を地道に続けてきた経緯がある。四半世紀にわたり多くの劇団が利用し、若手俳優や演出家の登竜門として機能してきた。
今回の承継は開場25周年にあたる節目に行われるもので、馬力屋の代表は「劇場を愛する表現者たちの遊び場を次代につなぎたい」とコメントしている。クーチの加藤雄樹代表取締役も「築かれた歴史という襷を受け継ぎ、100年先も愛される劇場を目指す」と述べた。劇場名に含まれる「BRATS(悪ガキ)」の精神を象徴として残し、創作の場としての個性を保ちながら再生させる狙いだ。
小劇場文化の継続と利用動向
小劇場は都内の演劇インフラの中でも、若手劇団や学生公演の発表の場として重要な役割を担っている。中規模劇場が多い新宿エリアでは、近年も老舗施設の改修や運営交代が相次いでおり、長期利用を前提とした管理体制の再構築が進んでいる。設備の老朽化による安全基準の見直し、バリアフリー対応、映像機材の共有化などが課題とされてきた。
背景には、文化施設の再整備を後押しする公的助成や、民間運営での収支構造の再構築の必要性がある。特に貸館方式を採用する小劇場では、空調や照明設備の改修費負担が課題とされており、今回のように運営母体が交代する事例が増えている。業界関係者は「愛着ある劇場のブランドを残したまま、民間の資金と企画力で再生を図る流れが広がっている」と指摘する。
再開後の注目点
設備工事を経て再開する2026年5月以降は、演劇のみならず映像収録やイベント用途にも対応できる運用方針が検討されている。公式案内では2027年12月末までを対象期間とする記念利用枠を設定し、すでに予約受付を始めている。現行の運営契約は2026年3月末までに締結した団体が対象となるため、アマチュアからプロ劇団まで幅広い層の利用が予想される。
改修後は利用手順や機材共有ルールが一部変更される見通しだ。利用者側には、申込時期や責任分担、受付経路などの実務を確認する必要がある。クーチは今後、ウェブサイトを通じて貸館スケジュールや利用条件を順次公表していく方針を示している。再生に向けた同社の取り組みは、小劇場経営の持続可能性を探る新たな事例となりそうだ。