株式会社八幡屋礒五郎(長野県長野市)は、自社で運営する研究開発施設「CEVEN LAB(セブン・ラボ)」が「日本サインデザイン賞・金賞」と「日本空間デザイン賞・銅賞」を受賞したと発表した。施工を手がけた株式会社乃村工藝社と連携し、長野県の伝統調味料「七味唐からし」の製造文化を体験・発信する場としてのデザイン性が高く評価された。
同施設は企業の研究・開発・商談・交流の拠点を一体化した空間として位置づけられている。
受賞は、創業から続く食品づくりの技術を次世代の事業基盤と結びつける取り組みの成果であり、同社にとって伝統継承と地域発信を推進する節目となる。
長野に複合型ラボ設立、商談や試作に対応
CEVEN LABは2025年3月、同社の検品・包装室と資材倉庫を改修してオープンした。
BtoB向け「カスタムブレンドPRO」コラボ商品の商談ラウンジやテストキッチン、ショールームを備えた複合施設で、企業や自治体との共同開発やイベント開催などにも活用できる構造となっている。
施工を担当した乃村工藝社は、体験型研究空間の設計に実績のある空間創造企業であり、同社のデザイン・演出力と八幡屋礒五郎のブランド価値を融合させた点が評価対象となった。
審査では、伝統的な七味唐からしの世界観を現代的な空間に落とし込み、研究施設でありながら交流・展示・商談・教育の機能を一体化した運営構造が特徴として挙げられた。
老舗企業が研究開発の場を広く社会に開く姿勢が、企業活動と地域文化をつなぐ新しいモデルになったとされる。
七味缶誕生100周年の展示も入選、来場最多記録
同社は2024年4月、七味缶誕生100周年を記念して長野県立美術館市民ギャラリーで特別展を開催しており、この「七味缶百周年記念展〜食卓であゆんだ100年〜」も日本サインデザイン賞に入選した。展示では、缶の歴史や素材、デザインなどの要素を「七味缶の解剖」をテーマに構成し、同ギャラリー史上最多の来場者数を記録した。施設設計と展示演出という異なる分野で同時期に受賞・入選を果たしたことで、空間づくりを通じたブランド表現が一貫して評価された格好だ。
長野県150周年記念缶も発売、県産素材で連携深化
こうしたデザイン・文化発信の流れと並行して、八幡屋礒五郎は2025年12月に「2026年イヤーモデル〈長野県150周年記念缶〉」の発売を発表している。
1876年に筑摩県と長野県が合併してから150周年を迎える節目に合わせ、県内4地域の名所である善光寺、安楽寺八角三重塔、松本城、諏訪大社を描いた限定缶を制作。長野県PRキャラクター「アルクマ」が巡るデザインで、各地の寺社や観光地とも連携した。
同缶では長野県産唐辛子100%を使用しており、信州大学農学部と約10年をかけて共同開発した品種「信八唐辛子」や、大鹿村で栽培される伝統野菜「大鹿唐辛子」をブレンドしている。
素材面でも地域連携を軸とし、CEVEN LABを拠点とした農産物流通・開発の広がりを予感させる企画となった。
伝統×デザインの伸展、老舗再編の潮流に
八幡屋礒五郎は1736年創業。善光寺門前での七味製造に端を発し、2024年の七味缶百周年、2025年の研究拠点開設、2026年の県記念缶発売と節目ごとに事業を進化させてきた。
これまでも信州大学や地域農家との協力体制を築き、自社農場を通じて唐辛子の品種改良と地場農業の維持に取り組んでいる。
一方で外部環境では、食品業界における伝統産業のブランディングや観光連動の重要性が高まっている。長野県が観光と食文化を軸に地域振興を進める中、地場企業の文化発信力が地域経済の価値形成に与える影響は大きい。今回の受賞は、老舗が空間戦略を用いて事業継承に取り組む象徴事例といえる。
経営者とデザイナーが語る評価軸
受賞式では、八幡屋礒五郎九代目の室賀栄助代表と、乃村工藝社デザイナーの中川百合氏が登壇した。
室賀氏は創業289年目にあたる節目を迎えるにあたり、「研究と交流の場づくりを通じて、食文化の可能性を広げたい」と述べ、中川氏は、伝統を尊重しながら現代の感性で再構築する設計プロセスが評価されたと説明した。
CEVEN LABは今後も商談・展示・商品開発を兼ねる場として活用される予定だ。七味缶百周年展の経験で得た展示表現のノウハウを継承しながら、県内外の企業・大学・観光拠点とのコラボレーションが検討課題となる。
伝統産業の保存と共創による発信拠点として、次の文化プラットフォーム形成が注目される。