株式会社山形鉄道(山形県長井市)は、第三セクターとして運営する「フラワー長井線」の存続を目的に、クラウドファンディングを開始したことが分かった。目標金額は600万円で、募集期間は12月30日までとしている。沿線の2市2町を結び、通学や観光を支えてきた路線だが、少子化や人手不足などにより経営環境が急速に悪化している。
同社は、運転士の育成費や減便運行の解消に向けた費用を確保し、地域の公共交通維持を目指す。背景には、通学利用者の減少や不正送金詐欺被害による損失など、経営上の課題が重なったことがある。沿線自治体と企業の出資で設立された同社にとって、今回の資金調達は地域支援の再構築を図る意味合いも強い。
クラウドファンディングで600万円超を達成
山形鉄道が実施するオンライン支援は、募集開始から10日ほどで当初目標の250万円を突破。その後も全国のファンや観光客の支援が相次ぎ、12月9日時点で次の目標である600万円を達成した。最終日まで募集を続け、さらなる資金を呼びかけている。募金は運転士の採用と育成、インバウンド客への対応体制、利便性向上策などに充てる計画だ。クラウドファンディング事業者「うぶごえ株式会社」を通じて寄付が行われ、沿線や県外の支援者からも多くのメッセージが寄せられた。現場職員のモチベーション維持にもつながっているという。
長井線の運行100年 地域の象徴的存在
フラワー長井線は、南陽市赤湯駅から白鷹町荒砥駅までの全長30.5キロメートルを結ぶ在来線である。昭和63年(1988年)に国鉄長井線の廃止を受けて誕生した第三セクター鉄道で、開業から現在まで地域の通学・通院・観光輸送を担ってきた。沿線は「花をテーマにした町づくり」が進み、路線の名称もこの地域性に由来する。2023年には全線開通100周年を迎えた。
運行する車両には、南陽市、川西町、長井市、白鷹町それぞれの花をモチーフにしたラッピングが施されている。地域住民に加え、写真愛好家にも人気の被写体だ。地元主催の「フラワー長井線まつり」ではワンコイン運賃の記念運行や地元学校の演奏会が開かれるなど、地域イベントの核となっている。
利用減と人材不足が経営を直撃
一方で、近年は通学需要の減少に加え、運転士不足が深刻化している。2024年春には減便を余儀なくされ、採用・教育コストの負担が経営を圧迫した。また2025年3月には約1億円規模の不正送金被害も発覚し、財務への打撃が大きい。人口減と高齢化の進行で輸送人員は減り続け、慢性的な赤字が続く構造から脱却できずにいる。地域では、長井市を中心に公共交通の維持に向けた検討が進むが、地方鉄道の財政基盤は脆弱だ。山形鉄道は「減便解消のためにはまず人材の確保と育成が最優先」として支援金の活用を進める方針だ。
地元企業や自治体に協力呼びかけ
今回のプロジェクトでは一般支援者向けのほか、法人向けの協賛枠も設けた。副駅名の命名権、駅構内や列車内の広告掲出など、地域企業の広報と路線支援を両立する仕組みを導入している。掲出期間はいずれも2026年から1年間を予定しており、地域経済との一体的な再生を狙う。山形鉄道は、過去にも地域イベントや観光列車の企画を通じて企業スポンサーと連携してきた実績がある。うさぎのキャラクター「もっちぃ駅長」は観光PRに活用され、地元特産品とのコラボレーションも行われている。
地域交通の持続性問われる
沿線の長井市や川西町ではマイカー依存度が高く、地域内交通の空洞化が進む。総務省の統計によると、長井市の人口は約2万4800人で、過去10年で減少傾向が続く。若年層の流出に伴い通学客が減る中、鉄道の役割を地域全体で再定義する動きが求められている。地方鉄道の維持は全国的な課題であり、第三セクター方式の路線は多くが同様の構造的問題を抱える。関係者の間では「鉄道を守ることは地域文化を守ることでもある」との声が上がる。
クラウドファンディングの成功は明るい兆しだが、短期的な資金確保だけで根本的な経営改善にはつながらない。山形鉄道は今後、運行ダイヤの見直しや観光誘客策の強化、持続可能な運営モデルの構築を検討する。インバウンド需要の回復を見据え、訪日客対応の体制整備も進める考えだ。一方で、自治体支援や地域住民の利活用意識の醸成が不可欠となる。地域公共交通の再生に向け、鉄道を核としたまちづくりをどう進めるかが今後の焦点となりそうだ。