水循環技術ベンチャーのWOTA(東京都中央区)は2025年12月4日、全国7ブロックの都道府県および厚生労働省所管の災害派遣医療チームDMAT事務局と「災害時の生活用水資機材の広域互助に関する協定」を締結したと明らかにした。
同社が提唱する「水循環システムの自治体間広域互助プラットフォーム」構想を実現する取り組みで、災害時に被災地へ生活用水を速やかに届ける官民連携体制を整える。あわせて、運営組織「JWAD(Japan Water Association for Disaster)」を本格稼働させる。
WOTAによると、協定は全国知事会が定める7ブロックすべての知事会管内に含まれる都道府県と締結済みで、全国網の基礎が整った。DMAT事務局との協定も結び、医療現場への迅速な支援連携体制を構築する。能登半島地震での長期断水などを教訓に、自治体・医療機関・企業が一体となった「広域互助モデル」を推進するのが狙いだ。
全国で災害時の断水対策を強化
今回の枠組みでは、発災時に各都道府県が保有する可搬型水循環システムを未被災地域から被災地へ融通する。WOTAが運営するJWADが要請の受け付け、調整、配分計画までを一元的に担う。これにより、従来ばらつきのあった輸送手配や設置作業を迅速化できると見込む。
県単位での集約輸送で一週間以内に10台以上を届けた実例があり、同社は今回の制度化でこうした効率化を全国に広げる考えだ。
JWADが支援調整の中核に
本格始動したJWADは、自治体と医療機関、民間企業の官民連合組織として運営される。平時は情報共有や訓練・事前配備を進め、災害時には資機材や人材を集約。さらに被災地内の需要調整を行う「最適配分」の3機能を備える。
今後は2025~26年度を「構築期」と位置づけ、全国連携の枠組みを整備。2026~27年度の「実装期」には訓練と物流体制を整え、2028年度以降には規格化や認証制度の創設にも着手する。WOTAは全国自治体への協定拡大を進め、生活用水供給のレジリエンス(回復力)向上を目指す。
ライフライン復旧の遅れが後押し
水道は「地中のライフライン」と呼ばれ、災害時復旧の遅れが深刻とされる。能登半島地震では電気や通信の多くが1カ月で復旧した一方、上下水道の復旧には半年を要した。飲料水は給水車などで確保できても、入浴・手洗いなどの生活用水は供給が追いつかず、衛生悪化や感染症拡大を招いた。
政府も「経済財政運営と改革の基本方針2024」や「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」で、水循環型シャワーなどの導入を明記。国難級災害では断水被害が1800万〜3400万人に達する可能性があり、広域的支援体制の整備が急務となっている。
自治体と医療現場が高く評価
石川県知事の馳浩氏は「能登地震の経験を踏まえた発想であり、自治体間融通は極めて重要」と述べ、徳島県の後藤田正純知事も「防災装備品としての全国配備体制が不可欠」と強調した。DMAT事務局の近藤久禎次長は「医療現場では水が途絶すれば診療も制約される。水循環システムの活用は不可欠」と指摘した。
内閣府の津島淳副大臣は「官民と医療が一体となる新たな防災モデルだ」と評価し、防災庁設置を見据えた官民連携の具体事例と位置づけた。政府は今後、防災基本計画に同様の仕組みを組み込む予定だ。
民間技術の実装に課題も
WOTAは2014年創業のスタートアップで、小規模分散型の水循環システムと自律制御技術の開発を行ってきた。生活排水を再生して再利用する防災向け設備だけでなく、家庭用システムを一部地域で実証しており、水問題の構造的解消を掲げている。
一方で、全国規模の体制を実効性あるものにするには、移送経路確保や運用人材の平時訓練など、現場運営の持続性が鍵を握る。業界関係者は「設備の数量よりもオペレーションノウハウの共有が焦点」とみており、WOTAは今後自治体と共同で訓練機会を拡大する方針だ。
制度化で全国展開を加速
政府の防災基本計画改訂では、民間機能を防災資源として明確に位置づけ官民協働の制度化を進める見通しだ。JWADはこれに連動し、2028年度以降の標準化フェーズで生活用水機材の規格化と認証制度を設ける計画である。
WOTAは「人々の衛生と尊厳を守るインフラとして水循環モデルを確立する」としており、今後の全国拡張と国際協調も視野に入れる。制度設計が各自治体でどう運用されるか、そして国難級災害時にどこまで機能を発揮できるかが、今後の防災政策の主要なテーマとなるだろう。