AIソリューションやAIサーバー事業を手掛ける株式会社VOLTMIND(大阪府大阪市)は、戸建・集合住宅などのメンテナンス事業を展開する株式会社サニックス(福岡県福岡市)と、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を目的とした共同プロジェクト「SAAD Project」を開始した。両社は基幹システム刷新に加え、AI推進体制構築やAI人材育成を一体で進める計画だ。
VOLTMINDはサニックスに対し、自社が開発したAI技術と開発手法を提供する。運用基盤の再構築を通じて、業務効率とデータ活用力の向上を狙う。
プロジェクト全体はサニックスのIT基盤刷新を軸とするもので、VOLTMINDが技術面を、サニックスが実務環境の適用を担う。両社の協働は、住宅関連事業領域でのAI導入を進める新たな枠組みとなる。
AI駆動手法で14カ月の開発 2026年完成予定
SAAD Projectの特徴は、VOLTMINDが独自に開発した「AI駆動開発手法」を採用している点だ。AIエージェントが既にサニックスの業務データを解析し、6カ月間で基幹システムの要件定義を完了した。
現在は開発段階にあり、仕様書からソースコード生成やテストを自動化している。開発期間は14カ月で、2026年10月の完成を目指しているという。
従来の大規模システム開発では複数年に及ぶケースが多いが、AIの介在により要件定義から検証までの工程を大幅に短縮できる。
この結果、開発コストや人員負担の抑制につながる見込みだ。VOLTMINDは、本プロジェクトで自社のAI駆動手法の実効性を産業界に具体的に示す機会と位置づけている。
AI教育と推進体制の整備 全社展開を構想
VOLTMINDは、サニックス内にAI戦略を担う専門部署の新設を支援する。戦略策定と実行体制の確立を一貫して支えることで、同社全体でのAI導入を加速させる計画だ。
また、全従業員を対象にAI教育プログラムを提供し、基礎知識から業務直結型の応用スキルまでを体系的に習得できる仕組みを構築する。
AIリテラシー向上を組織レベルで進めることで、現場判断にデータを取り入れた運営を推進する。教育と仕組みの両面から改革を図る狙いであり、VOLTMINDはプロジェクト終了後も技術支援を継続する方針だ。
サニックスは、システム刷新を契機にAIを基盤とした業務モデルへの転換を図る。
背景に「2025年の崖」 レガシー刷新へ対応加速
この取り組みの背景には、経済産業省がDXレポートで指摘する「2025年の崖」問題がある。
日本企業の多くは長年にわたりカスタマイズされた基幹システムを維持し続けており、老朽化・複雑化した体制が経営リスクとなっている。放置すれば年間最大12兆円規模の経済損失が生じる可能性があるとされ、基幹システム刷新の必要性が増している。
VOLTMINDが掲げるAI駆動開発手法は、こうした長期化・高コスト化の課題を克服する手段とされる。
AIを開発工程全体に導入することで、要件定義から検証に至る時間と費用を圧縮し、実行可能なDX投資として提示する形だ。
サニックスは、そのモデルケースを住宅関連産業の中で先行実証する立場を取る。
持続的成長を見据えた体制強化
サニックスは2024年10月に設立されたサニックスホールディングス傘下の事業会社で、環境衛生や住宅メンテナンス事業を展開している。
今回の協働によりグループ内の業務効率を高め、基幹系と営業系を連動させたデータ活用基盤の整備を進める。AI教育の浸透と並行して、次世代の業務標準化を急ぐ方針だ。
VOLTMINDは2024年2月の設立以来、AIシステム開発やAIサーバー運用を通じて中堅企業のデジタル化支援を進めている。
今回の共同プロジェクトは、同社が提供するAI開発手法を大規模業務に適用する初の事例となる。AIの本格的な業務統合を支援する枠組みとして、住宅やエネルギー分野への波及も見込まれる。
サニックスの稲田剛士社長は、「全社的なDX推進を軸に持続的成長を図る」と述べ、VOLTMINDの北森聖士代表取締役は「AI駆動開発により日本企業の変革を支援する」と強調した。両社はシステム開発だけでなく、人材・組織面の転換を重視する立場を示している。今回の協働は、大規模システム刷新の実効性をAIで実証しようとする産業界の流れの一端を示す動きといえる。