株式会社東芝(神奈川県川崎市)は2025年12月10日、Vanguard Industries株式会社(東京都港区)および協和海運株式会社(同)と共同で、大洋州の小島嶼開発途上国における未電化地域向け電力供給を担う新会社「Radiant Technologies株式会社」を設立し、同月からバヌアツ共和国でサービスを開始したことを明らかにした。再生可能エネルギーを活用し、現地の商店を拠点にしたエネルギーシェアリング事業を展開する。
3社は、持続可能な電力網の整備を通じて生活インフラを自立的に発展させるモデルの確立を目指す。東芝が社内で推進してきた実証プロジェクトを事業化する枠組みであり、オープンイノベーションを軸に異業種が連携した新形態の国際電力事業となる。
東芝主導の新会社がバヌアツで稼働
新会社Radiant Technologies(RT社)は、東芝が2019年に始めた社内イノベーションプログラム「みんなのDX」から生まれた実証事業「Delighting Everyone Project(DEP)」を基礎に設立された。マランパ州で、太陽光発電システムによる電力供給を構築し、充電式LEDランタンやバッテリーを地域住民に貸し出す。
これにより従来の送電網整備に依存せず、商店を拠点とした地域単位の電力循環を形成する。各商店には東芝が開発したスマートフォン向けの決済アプリが導入され、住民が容易に電力を利用できる環境を整えた。現地法人を含むRT社の運営は2025年3月に正式に設立された枠組みに基づき、12月から事業が本格化している。
それぞれの強み生かした三社連携
今回の事業では、3社が明確に役割を分担する。東芝はエネルギーマネジメント技術やIoTの知見を生かし、再生可能エネルギーシステム運用および決済アプリ開発を担う。Vanguard Industriesはベンチャービルディングの知見を基に事業立ち上げや体制設計を主導し、協和海運は半世紀にわたり培ってきた大洋州航路の物流ネットワークを活用して機材輸送を支援する。
この協力体制は、技術・事業構築・物流の三つの機能を統合した構造を持つ。関係者によると、現地社会との信頼関係を重視しながら持続的に運営できる枠組みを整えることが鍵だという。東芝の島田太郎社長は「エコシステムの中で理念に基づくDXを実現し、大洋州に信頼性の高いインフラを築く」と述べ、連携強化への意欲を示した。
発足の背景には、大洋州島嶼国における電力アクセスの課題がある。バヌアツ共和国の未電化世帯率は依然として高く、政府は国家エネルギーロードマップに基づき、再生可能エネルギーによる電化推進を掲げてきた。RT社の事業は、こうした国家戦略と整合する形で民間が構築する新たな社会インフラと位置づけられる。東芝は海外での再生可能エネルギー普及支援を進めており、DEP実証を通じて現地コミュニティとの協働経験を蓄積してきた。現地ニーズに即した小規模電源モデルを持続的に展開するには、迅速な展開性とコスト抑制が不可欠だった。大規模送電依存を排した今回のスキームは、その実績を基盤にした次段階といえる。
アジア太平洋で拡張を模索
当面はバヌアツ共和国マランパ州での事業を中心に運営するが、3社は他地域への波及も視野に入れている。バヌアツ国内の離島や他の小島嶼開発途上国への展開を検討しており、物流インフラと現地人材育成を組み合わせたスケーラブルなモデル形成を目指す。
Vanguard Industriesの山中聖彦代表は「大企業とスタートアップの協働が社会課題解決の実効性を高める」と説明。協和海運の髙松裕満社長も「地域との信頼関係を背景に、物流支援を軸とした経済発展に貢献する」と語った。今後は各国の電化計画や国際開発機関のプログラムと連携する可能性もある。
地域発展と事業持続の課題
現地ではエネルギー供給網だけでなく、決済やメンテナンス体制を整えることが求められる。東芝は自社のデジタル基盤「TOSHIBA SPINEX for Energy」を活用し、予防保守や利用データの収集を行う方針だ。これにより電力量の最適化や需要分析につなげる構想もある。
一方で、国際海運や輸送コスト、設備保守要員の確保は依然として課題である。協和海運のルート網が支援を担うが、長期的な採算確保には現地産業との連携や政府補助枠組みとの調整が不可欠となる。業界関係者の間では、持続可能性と採算性のバランスが主要なテーマになるとみられる。
再生可能エネルギー投資の新潮流にも波及
国際的には再生可能エネルギーの分散型導入が進みつつあり、特に島嶼国では自立分散型電力の需要が高い。JICAなどの公的開発機関も大洋州での脱炭素支援を掲げており、民間企業主導のRT社事業はその動向と歩調を合わせる形となる。
また、 COP30で議論された気候ファイランス強化やパートナーシップの潮流を背景に、企業間連携による社会インフラ投資は広がる可能性がある。小規模ながら即効性のある事業モデルとして注目され、他地域での横展開が現実味を帯びてきた。エネルギーアクセス拡充と経済自立をどう両立させるかが、今後の焦点となるだろう。