東レ株式会社(東京都中央区)は、炭素繊維「トレカ®」および同素材を用いたプリプレグなどの中間加工品の価格を2026年1月出荷分から10~20%引き上げることを明らかにした。値上げの対象は炭素繊維と「トレカ®」を基材とした各種製品で、世界的な需要拡大と原材料コストの上昇を受けた対応である。
炭素繊維は脱炭素社会の実現に資する軽量素材であり、航空・自動車・風力発電分野などへの活用が広がっている。エネルギー価格や輸送費、原料樹脂の高止まりが続く中、東レは安定供給を維持するための価格是正が不可欠と判断したとみられる。原材料費に加え、燃料や物流コストの上昇が収益を圧迫しており、製品の安定生産体制を確保する狙いもある。
トレカ®製品を中心に10~20%の改定幅
今回の値上げは、同社の主力素材ブランドである「トレカ®」炭素繊維およびプリプレグ、クロス、ラミネートなどの加工品が対象となる。改定幅は現行価格比で10~20%で、2026年1月出荷分から順次適用する。「トレカ®」は軽量で高強度の特性を持ち、航空機からスポーツ用品、産業用途まで幅広い分野で用いられる。世界的な環境対応需要を背景に、今後も市場規模の拡大が見込まれている。
炭素繊維分野で採算是正の動き広がる
同業他社でも、原料やエネルギーコストの高騰を受けて価格転嫁の動きが進んでいる。炭素繊維は原料であるアクリロニトリルなどの価格上昇に加え、製造時の高温加熱に伴う燃料コスト増が収益を圧迫してきた。東レは長年にわたり炭素繊維事業をリードしており、航空・自動車用途の拡大とともに複数の海外生産拠点を運営している。今回の改定は一時的なコスト上昇対応にとどまらず、持続的な供給体制を維持するための構造的な価格見直しと位置づけられる。
一方で、オンライン情報発信の充実度を示す「Gomez IRサイトランキング2025」では、東レが業種別の「繊維製品」部門で第1位となった。同調査は国内上場企業389社を対象に、IRサイトの情報充実度など249項目で評価した。東レはIRサイトの構造や開示情報の明確さが高く評価され、投資家向け情報提供の面でも繊維業界を代表する存在となっている。財務・決算情報の見やすさに加え、統合報告書やサステナビリティ関連情報の連携が進んだ点が評価理由とされた。
素材産業でESG対応とコスト管理の両立が課題
炭素繊維は、電動車や再生可能エネルギー施設など地球環境対応型インフラの軽量化に寄与しており、環境分野での重要度が高い。供給網の適正化と安定供給を維持するため、メーカー各社は価格改定や設備投資を通じた採算確保に動いている。素材産業では、エネルギーや物流の高コスト局面とESG経営の要請が重なり、コスト上昇をどのように転嫁しつつ供給を維持するかが大きな課題だ。市場関係者の間では、今回の東レの判断が、炭素繊維分野全体における価格再編の指標となるか注目されている。
持続的な供給体制の確立が今後の焦点
今後、航空機や風力エネルギーなどの分野で軽量素材の採用が一段と進む見通しだ。需要増が続く中、安定供給と環境負荷の低減を両立させるためには、生産効率化と価格構造の是正が欠かせない。東レは、ナノテクノロジーや高分子化学などのコア技術をもとに、リサイクル素材や高機能膜分離技術の開発も進めており、資源循環型社会の形成に向けた取り組みを強化している。今回の価格改定は、同社が持続可能な素材供給の枠組みを再構築する過程の一環とみられ、業界の価格動向や調達構造への影響が今後の焦点となりそうだ。