東京建物株式会社(東京都中央区)と住友林業株式会社(東京都千代田区)が、米国カリフォルニア州ロングビーチ市で賃貸住宅開発プロジェクト「Jefferson Portico」に共同参画し、2025年11月18日に新築工事を開始していたことが分かった。本件は東京建物の米国現地法人Tokyo Tatemono US Ltd.(東京建物US)と、住友林業の連結子会社JPIグループ(JPI)を通じた取り組みであり、両社による米国での協業は通算4件目となる。
本プロジェクトは、ロサンゼルス都市圏の住宅需要拡大に対応する都市型賃貸住宅開発として位置付けられている。東京建物は海外事業の重点地域である米国市場において投資を拡大しており、住友林業は木造建築のノウハウを生かした現地開発力を持つJPIと連携することで、木材を活用した集合住宅の供給を進める。両社の協業は、脱炭素建築や持続的な不動産開発を意識した事業展開の一環となる。
ロングビーチ中心部に272戸を整備
Jefferson Porticoは、ロングビーチ中心部のプロムナードに面した立地で、敷地面積は約6,394㎡、延床面積約22,498㎡の8階建て賃貸住宅兼商業施設となる。住戸は272戸で、そのうち16戸がアフォーダブル住宅に設定される。1階と2階には飲食や物販などの商業施設を備え、3階以上が居住エリアとなる設計だ。
設計コンセプトは多様な層への対応と共用空間の充実である。居室はワンルームから3LDKまでを用意し、単身者からファミリー層までを想定する。共用施設にはフィットネスセンター、スカイデッキ、サウナ、クラブハウス、コワーキングスペース、ペットスパなどを配置。ゆとりを持たせた設計で周辺の競合物件との差別化を図る計画だ。賃貸開始は2027年9月、竣工は2028年3月を予定しており、完成後は地元雇用の受け皿としても機能する見込みである。
再開発が進む街区と交通利便性
本物件が立地するロングビーチ市は、ロサンゼルス都市圏南部に位置する人口約46万人の港湾都市で、交通インフラと商業機能が集積している。主要高速道路710号線・405号線に近く、ロサンゼルス国際空港までは車で約30分、ロングビーチ空港へは約12分でアクセスできる。徒歩約3分の5th Street駅からはライトレールでロサンゼルス中心部へ直通しており、通勤・観光双方の需要が見込まれる。
市中心部には飲食店や商業施設が並ぶプロムナードが整備され、歩行者中心の「ウォーカブルシティ」として再生が進む。市は近年、数億ドル規模の再開発を進めており、ロングビーチ水族館や新市庁舎(2019年竣工)、図書館と公園を組み合わせた再開発地区(2022年完成)など、公共と民間が一体となった都市整備が進行している。今後も港湾周辺のウォーターフロント開発や商業・住宅インフラ整備の計画が続き、産業集積地へのアクセス性の高さから雇用増加が続いている背景にある。
東京建物は年間200億円規模の海外投資へ
東京建物は、2030年に向けた長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」で海外事業拡大を経営の柱の一つに掲げている。2025〜2027年度の中期経営計画では、海外事業に総額1,100億円を投資する計画を明示。米国、オーストラリア、タイ、中国などで分譲住宅や物流施設、オフィス開発を展開している。特に米国は重点投資国と位置づけ、2023年に米国市場へ再進出後、現地法人の東京建物USを通じて累計11件(うち賃貸住宅9件、物流施設2件)のプロジェクトに参画してきた。今回の案件は、その連続的な海外展開戦略の一環となる。
同社は現地パートナー企業との共同開発を軸に、年間200億円超の投資案件獲得を目標に掲げている。ロングビーチ案件では、過去のバージニア州やコロラド州での協業事例を踏まえ、米国西海岸市場への事業基盤構築をねらう姿勢がうかがえる。建材や設計工法の展開実績を生かし、住宅需要が拡大する都市部で安定した賃貸運用を狙う構図だ。
住友林業、木造集合住宅で脱炭素型事業を拡大
住友林業は、2018年に米国の賃貸用集合住宅市場に参入した後、テキサス州を中心に事業を広げてきた。2023年に子会社化したJPIは、ダラスを拠点に開発・設計・施工を一体で運営する開発会社であり、品質とコスト管理に強みを持つ。2024年の同社グループによる集合住宅着工戸数は5,344戸で、全米開発業者ランキングでは4位相当とされている。
同グループは木を軸としたサプライチェーンを有し、「森林経営から木造建築まで」を貫く「ウッドサイクル」モデルを推進する。2030年までの長期ビジョン「Mission TREEING 2030」では、木造建築の普及による炭素固定と森林のCO2吸収量拡大を両立させ、社会全体の脱炭素化に貢献する方針を示している。米国でもこの理念を基に木造集合住宅を展開しており、今回の開発でも木造(枠組壁工法)を採用する点が特徴となる。
再開発と住宅需要の均衡が注目点
ロングビーチ市では住宅需要が再開発と並行して高まっているが、港湾労働者やサービス業従事者向けの中価格帯住宅の供給不足が長年の課題とされてきた。今回の272戸のうち16戸をアフォーダブル住宅として設けることで、所得層に応じた選択肢を提供する構成が特徴だ。賃貸市場の需給バランスがどの程度改善されるかが今後の焦点となり得る。
建設・運営は東京建物USとJPIがそれぞれ主体となる仕組みで、調整は住友林業アセットマネジメント(東京都千代田区)が担う。ライフスタイルの多様化に合わせた住宅供給の一方で、設備維持や賃貸管理体制の整備も持続的な運営上の注目点となる。現地では再開発計画の進展に応じて賃貸物件の競争が高まっており、開発側の設計・管理両面の最適化が今後の課題といえる。今回の動きは、日系ディベロッパーが北米都市での持続的な住宅供給体制を強化する流れの中に位置づけられる。