株式会社竹中工務店(大阪府大阪市)は、国際的な非営利団体CDP(本部・英国ロンドン)が毎年発表する企業の環境対応評価で、気候変動分野における最高位の「Aリスト」に2年連続で選ばれたことが明らかになった。気候変動対策の情報開示や環境ガバナンスの成熟度が高く、環境レジリエンスに向けて実質的な進展を遂げたと評価された。
CDPは企業の環境情報の透明性を高める国際的評価機関で、環境データの開示を促す仕組みを運営している。今回の選定は、竹中工務店が策定した「環境戦略2050」やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示体制の強化など、一連の取り組みの成果が反映されたものとみられる。建設業界では環境対応力が企業の競争力に直結しつつあり、同社のリーダーシップが改めて示されている。
22,100社を超える対象の国際評価で高評価
CDPは世界で唯一、独立した環境情報開示システムを運営しており、2025年には22,100社を超える企業が同団体のプラットフォームを通じて情報を開示した。そのうち、約20,000社にスコアが付与され、情報の透明性や脱炭素などの実行力がAからDマイナスの8段階で評価された。竹中工務店はこのうち、気候変動分野で最高評価となる「Aリスト」に2年連続で名を連ねた。建設業界における日本企業の上位選定は限られており、国際的にも同社の環境取り組みは高く評価されている。
CDPが評価対象とするのは、温室効果ガス排出削減、企業ガバナンス、サプライチェーンでの対応、情報開示など広範な分野に及ぶ。選定企業は、脱炭素経営を自社に定着させているかが問われる。竹中工務店は自社事業だけでなく、グループ全体の環境データを統合的に管理し、継続的に開示していることも特徴とされる。
環境戦略2050を中期的に改定 脱炭素・自然共生を推進
同社は2023年に策定した「環境戦略2050」を2025年4月に改定する。脱炭素社会、資源循環社会、自然共生社会を柱とし、長期的なサステナビリティ経営を掲げる方針だ。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、グループ全体でのCO2削減長期目標を設定。具体的には、スコープ1と2の排出を2019年比で46.2%減とし、2024年3月にはSBTi(Science Based Targets initiative)の認定を取得している。この認定は、企業が科学的根拠に基づき排出削減目標を設定していることを示す国際的な証明であり、建設業界での先行事例として注目されている。
竹中工務店では今後、改定する環境方針をグループ共通の基準として運用する。環境戦略の進捗管理をグループ会社間で共有し、各事業所やプロジェクト段階でのCO2削減手法の標準化を進める方針だ。環境データの一元化は、サプライチェーン全体での削減浸透に向けた基盤づくりにもつながる。
TCFDレポート拡充し情報開示を強化
同社は情報開示体制の整備にも力を入れており、2025年4月には「TCFDレポート2025」を公表する予定だ。これは気候関連の財務情報開示を求める国際提言に沿って内容を見直したもので、組織的な環境ガバナンス、リスクマネジメント、戦略および指標目標の四本柱を具体的に整理する。報告書はCDPへの回答資料にも反映され、外部評価機関や投資家との対話拡大、ステークホルダーへの説明責任強化につながる。近年、建設業界でもESG投資の資金が流入し、情報開示の透明性が資本調達コストに直接影響する構造が進んでいる。
竹中工務店は「迅速で一貫した情報開示により、外部評価と企業行動の整合性を高める」としており、CDPのスコア向上を単なる目標ではなく、環境リスク対応の精度向上に結びつけたい考えを示している。持続可能な都市開発や再生可能エネルギー建築など、環境配慮型事業の拡大にも波及が見込まれる。
建設業界で進む脱炭素化 企業間連携が焦点
建設業界では、製造業やエネルギー業界に比べて間接排出の比率が高いとされ、原材料・施工・運用の各段階で温室効果ガス削減への対応が求められている。特にスコープ3の排出把握と削減が課題であり、発注者・施工会社・資材メーカーの連携が不可欠になっている。竹中工務店も取引先との協働を進め、資材製造段階での排出削減やリサイクル素材の活用を拡大しつつある。こうした動きが着実に評価され、CDPの枠組みでも結果として示された。
一方で、建設市場における環境関連投資は年々拡大している。国内では公共工事の入札資格に環境配慮を加える自治体も増加しており、産業界全体での対応力を見極める指標としてCDPやTCFDの開示基準を重視する流れが定着しつつある。企業にとっては評価の維持だけでなく、次世代に向けた技術・人材の体系化も課題に浮上している。
脱炭素社会への連携深化が鍵
竹中工務店は「グループ一丸となり脱炭素社会の実現に取り組む」と表明しており、今後はサプライチェーン全体での排出削減に加え、再生可能エネルギーの導入やスマートビル技術の開発にも注力する見通しだ。業界関係者の間では、同社の継続的な情報公開が他社への波及を促すとの見方があり、特に都市建設プロジェクトでの基準づくりが注目されている。国際的な開示基準との整合性をどう確保するかが、今後の焦点となるだろう。
CDPが重視するのは、単なる排出削減ではなく、「開示の質」と「ガバナンス体制」である。竹中工務店の事例は、日本企業がどこまでグローバル基準に対応できるかを示す指標にもなり得る。持続可能な社会実現に向けた実行力と説明力の双方を高める動きが、今後さらに広がる見通しだ。