株式会社Symbiobe(京都府京都市)は2025年12月9日、出光興産株式会社(東京都千代田区)および西部石油株式会社(山口県山陽小野田市)と共同で、西部石油山陽小野田事業所内に年間生産能力1トンのバイオ資材製造用実証設備(ベンチプラント)を構築したことを明らかにした。実証実験は2026年2月の開始を予定している。
3社は、Symbiobeが開発を進める紅色光合成細菌を使い、二酸化炭素と窒素を同時に固定する生物プロセスの商用化可能性を検証する。出光興産はこの分野をバイオ・ライフソリューション事業の重点領域と位置づけており、協業を通じてカーボンニュートラル型のバイオものづくりを実装する狙いである。
山口県で1トン規模のベンチプラント稼働
新たに稼働する実証設備は、西部石油の既存インフラを活用して建設された。紅色光合成細菌の培養から得られるグリーンバイオ資材を年間約1トン製造可能とする規模で、温室効果ガスの削減と資源循環の両立を目指す。この細菌は海中の二酸化炭素と窒素を体内に取り込み有機化合物として固定する性質を持ち、化石燃料を使わずに窒素資源を生み出すことができる。従来型生産で発生する膨大なエネルギー消費を抑え、持続可能な生産技術の構築を狙う。
この実証設備を、ラボスケールから工業スケールへの橋渡し段階と位置づける。屋外や工場環境に近い条件での運転データを蓄積し、CO₂・窒素固定の効率最大化を目指した運転条件を確立する計画である。成果をもとに2030年までに商業プラントの運転開始を目標に掲げており、量産技術とスケーラビリティの検証を進める。検証では電力コスト削減や再生可能エネルギーの利用によるグリーン化も同時に取り組む方針である。
出光興産とSymbiobeの協業深化
出光興産は2024年9月、京都大学発スタートアップのSymbiobeに出資し、微生物開発分野での連携を強化した。協業は同年6月に締結した温室効果ガス固定プラントの実証・商業化を目的とする戦略的パートナーシップに基づく。出光興産は長年蓄積してきたプロセス技術とスケールアップノウハウを生かし、Symbiobeの微生物開発力を産業レベルに引き上げる構想を持つ。Symbiobeは2021年設立のベンチャーで、空気を資源化する独自のバイオテクノロジーを軸に地球規模の環境課題へのアプローチを進めている。紅色光合成細菌の研究成果を応用し、すでにタンパク質繊維、農業用窒素肥料、水産養殖用飼料などの試作品開発を行ってきた。
精製停止後の西部石油敷地を活用
精製停止後の西部石油山陽小野田事業所は、2024年に石油精製機能を停止しており、現在は地域産業ハブ拠点として再構築を進めている。同所は海水の取得が容易で、ボイラー排ガスを原料として活用できるほか、電力・水などのインフラと運営ノウハウを備えており、バイオ資材製造に好適な立地条件を満たしている。12月5日には竣工式が行われ、3社は連携強化の方針を確認した。設備を活用した研究成果を商用プラント設計に反映し、紅色光合成細菌による産業利用と社会実装の加速を目指す。
バイオものづくりで新たな脱炭素産業モデル
バイオものづくりは、微生物の代謝を利用して肥料や飼料、繊維などを生成する技術で、化石資源原料の製造工程を代替する手段として注目されている。出光興産はこの技術を高機能材事業の主要領域に据え、自然のプロセスを工業化する方向で事業化を模索している。日本は海に囲まれ海洋性微生物の活用に地理的利点を持つとされ、業界関係者の間では、今回の実証が国内のバイオ産業競争力を高める転換点になるとの見方がある。環境負荷低減と地域再生の両立を図る新たなモデルとして、成果の波及が注目される。
3社は実証結果を踏まえ、商用化に向けた量産技術・経済性・エネルギー最適化の3点が焦点になると見込んでいる。 一方で、培養設備の維持コストや運転時の安定性確保、製品の市場価格競争力などの課題も残る。実証プロセスで得られるデータが、社会実装の実現性を左右する。
山口県という工業インフラの集積地で、再生可能エネルギーと微生物技術を組み合わせた新たな産業の確立を目指す試みは、今後の地方産業再編の一つの指針になり得る。産業界では、紅色光合成細菌の培養技術が脱炭素にとどまらず、地域経済の再構築へどのようにつながるかが注目される。