自動車関連のバーチャルテスト技術を手がけるS&VL株式会社(群馬県太田市)は2025年10月24日、マツダ株式会社(広島県安芸郡)と新世代自動車の開発におけるデジタル技術および人間工学の活用で協力することで合意したと明らかにした。今回の協業は、デジタル開発による自動車開発革新の流れを象徴する動きとなる。
自動車開発期間の短縮やモデルベース開発(MBD)の普及など、業界全体でデジタル化が進むなか、開発効率と人間中心設計の両立が課題となっている。S&VLはアジアで初めて大型ドライビングシミュレータ「DiM300」を導入した企業で、同装置を核にした仮想走行環境の構築で実績を持つ。マツダは人の感性や反応を重視した車づくりで知られ、両社の方針が一致したことから今回の提携が実現した。
DiM300による共同研究でプロセス効率化
協定では、S&VLが保有するDiM300を中心に、高度なバーチャルテストや人間工学的評価の仕組みを組み合わせ、共同研究を進める。人間の感覚を計測する把持力計などの研究設備も活用し、感性に基づく車両設計を加速させる。
人間工学とデジタル融合に注目集まる
S&VL代表取締役の村松英行氏は、合意について「シミュレーションと実験の両面で培った技術を生かし、マツダのもつ知見と融合させることで、革新性と安全性を両立する開発を支援したい」と述べた。自動車の快適性はハンドル操作や加速時の感性評価に左右され、人の感じ方の再現が重要な課題となる。今回の連携により、感性設計を定量的に検証する手法が強化される見通しだ。
S&VLは、Simulation & Virtual testing Lab.の略称を冠した社名を持ち、自動車業界向けの実験・解析支援を行う独立系エンジニアリング企業である。現場試験と仮想検証の双方を組み合わせる手法を通じて、品質向上や開発期間短縮など、製造現場の生産性課題を改善してきた。マツダはこうしたアプローチにより、初期設計段階からドライバーが感じる操作性や乗り心地を設計値として織り込むことが可能になると見ている。
加速するデジタル化が業界を牽引
近年、自動車開発のデジタル化は世界的に進展しており、日本でもモデルベース開発の導入率が拡大している。短期間で安全性能を実証しなければならない環境のなか、仮想試験の重要性は一段と高まっている。同時に、自動運転や先進安全装備(ADAS)を検証する際には、人間の生理反応を加味した評価が不可欠となりつつある。デジタル環境で人の判断や動作を予測できるかどうかが、今後の車両設計の成否を左右する構図だ。
国内外の主要メーカーはすでにドライビングシミュレータを開発プロセスに取り入れはじめているが、S&VLのDiM300はアジアで最も高い性能を有する装置の一つとされる。再現性の高さにより、欧米の先行開発に匹敵する実験環境を国内で整備できる点が評価されている。
課題克服へ向けた今後の方向性
両社は今後、共同研究の実装化を図りつつ、バーチャルテスト結果を実車開発にどう還元するかを探る。実験データの共有や分析手法の標準化もテーマとなる見込みだ。一方で、人間工学的評価を定量化する指標やテスト条件の整合化など、手法上の課題も残る。安全性・快適性・感性といった主観要素をどこまで数値に置き換えられるかが焦点となる。
自動車業界では電動化と並行して人間中心設計が注目されており、感性とデータを橋渡しする研究体制の構築が求められている。バーチャル環境を活用した人間研究が、今後の自動車開発プロセスの標準になるかが問われる段階に入った。