熊本県高森町と航空会社ソラシドエア(宮崎市)は2025年12月5日、震災復興から10年の節目を迎えるにあたり、「地域課題の解決に関する包括連携協定」を締結した。観光振興や防災協力など5分野での連携を柱に、町の活性化と災害対応力の強化を図る。航空会社と自治体の包括協定は九州でも注目される取り組みで、2026年度から共同プロジェクトを始動する計画だと明らかにした。
協定の目的は、観光や人口減少対策など町が抱える課題に対し、空のネットワークを生かした実践的な解決策を進めることにある。高森町は熊本地震以降、観光客減少と交流人口の停滞が続いており、地域外との新たな連携が求められていた。一方、ソラシドエアにとっては、就航地の地域社会と協働して地域価値を高める戦略の一環であり、震災復興支援を通じた地域ブランド強化を狙う。
観光・移住など5分野での新たな連携強化
協定では、産業振興と人口減少への対応、移住定住施策、観光と特産品の販路拡大、航空文化の振興、災害時の輸送協力の5項目を重点分野に定めた。日常的な連携に加え、災害発生時には航空路を活用した支援物資輸送など、迅速な対応を想定している。2026年度には共同プロジェクトとして、特別機「Go Forward くまもと号」を2年間運航する計画だ。運航開始は同年4月中旬を予定し、8月から9月には草村大成町長が特別機内アナウンスを行い、乗客へ高森町の魅力を紹介する企画も実施する。
同機の運航に合わせ、ソラシドエアの機内誌「ソラタネ」2026年8・9月号には高森町特集を設け、観光スポットや祭りなどの情報を掲載する。航空機の利用者層に町の現状を発信し、誘客と交流促進につなげる狙いだ。
震災復興の歩みと経済再生への課題
高森町は熊本地震で甚大な被害を受けた南阿蘇地域の一つである。震災後はインフラ整備や観光再生に取り組んできたものの、人口減少や若年層の流出が続き、経済の立て直しが課題となっている。町内の観光地では南阿蘇トロッコ鉄道の運行再開など復興の象徴的事例もあるが、観光客数は震災前をなお下回っている。ソラシドエアは、九州各地と主要都市を結ぶ航空網を活用し、地域商材の流通や情報発信の面で支援を広げている。高森町との協定は、こうした地域密着型の活動をさらに深める機会と位置づける。
連携協定締結にあたり、草村町長は「観光振興と防災力の向上を両輪として町民の安心と暮らしの質を高めたい」と述べた。ソラシドエアの山岐真作社長は「阿蘇の自然と人の営みが織り成す美しい地域が持つ力を、持続可能な形で広く発信していく」と語り、官民一体での地域づくりを強調した。
熊本連携中枢圏で広域観光ネット構築進む
高森町は菊池市などとともに「熊本連携中枢都市圏」に加盟しており、観光や地域産業の面的な連携を進めている。同圏内では、菊池市もソラシドエアと同様の協定を結んでおり、空路と観光資源を結ぶ広域ネットワークの形成が進んでいる。航空会社側は熊本地震10年の節目にあたる2026年を「地域再生の新たな起点」として位置づけており、県内の複数自治体との連携強化を打ち出した。観光関係者の間では、複数自治体と航空会社が同時期に協定を結ぶ動きは、被災地観光の広域復興モデルとして注目されている。各地域が持つ自然・食・文化を相互に紹介し合うことで、相乗効果を高めることが期待される。
持続可能な官民パートナーシップへ
高森町とソラシドエアは、協定に基づく事業の進捗を毎年度ごとに共有し、協働施策の検証を行う予定だ。とりわけ災害対応や移住・定住支援など長期的課題を扱う分野では、継続的な人的交流やデータ共有の仕組みづくりが求められる。地域経済の再生に向けては、観光客誘致に加え、地域産品の流通促進や人材育成をどう結びつけるかが焦点になる。町内では、特産のあか牛や阿蘽の草原を活用したエコツーリズム拡大の動きも始まっており、航空路との連携が鍵を握るとの見方が出ている。
一方で、航空需要の変動や人口減少の影響を踏まえれば、単発イベントだけでは定着が難しいとの指摘もある。協定が観光キャンペーンにとどまらず、地域経済の構造転換まで見据えた取り組みになるかが問われそうだ。業界関係者は「自治体と航空会社が共同で地域課題に取り組む動きは、復興政策の次の段階を示す」と分析する。
今後、熊本県内で進む他自治体との協定との連動がどこまで具体化するかが注目される。公共交通と観光の融合による新しい地域モデルの形成へ向け、高森町とソラシドエアの協働がどのように展開するかが焦点となりそうだ。