株式会社神姫バス(兵庫県姫路市)は2025年12月21日と27日、姫路市内の施設「tomalier」で、日本茶の基礎を学ぶ少人数制ワークショップを実施することを明らかにした。講師には市内で唯一、茶審査技術六段の資格を保持する赤松佳幸氏を迎え、参加者が急須の扱い方や産地による味の違いを体験できる内容となる。体験を通じて日本茶文化への理解を深めることを目的とするイベントで、同社が展開する地域活性化プロジェクト「Localprime」の一環となる。
神姫バスは2024年に同様のワークショップを開催し好評を得た経緯がある。日本茶に関心を持ちながらも、抽出方法や茶葉の違いを体系的に学ぶ機会が少なかったことから、再度の企画に踏み切ったとみられる。地域の人材と文化を生かした体験型事業として、観光だけでなく地元住民の学びの場にも位置づけている。
姫路で唯一の茶審査六段が講師
今回の講師を務める赤松氏は、全国でも希少な茶審査技術六段の資格を保持する。2026年春には姫路市内に「白鷺茶房」の開業を予定している。ワークショップでは、日本茶3種類の飲み比べ、急須を用いた実践、鎌倉時代に生まれたとされる「茶歌舞伎(ちゃかぶき)」の体験を通じ、香りや旨味の違いを五感で学ぶ。定員は各回5名の少人数で、初めてでも親しみやすく学べる設計にした。参加者には地元人気店「菓子刻」のブラウニーが提供される予定で、菓子と茶の組み合わせを楽しみながら地域食文化にも触れられる。
兵庫全体で広がる体験観光の潮流
兵庫県内では観光や癒しをテーマにした体験型イベントが定着しつつある。神姫バスのLocalprime事業が実施する日帰りツアーでは、姫路市夢前町の農家レストラン「且緩々(しゃかんかん)」を訪れ、地元野菜ランチやハーブオイルづくりを体験するプログラムが人気を集めている。同県では冬季のイルミネーションやナイトウォークなど“体験する旅”の需要が高まっており、単なる観光地巡りから「香りや味で地域を知る」旅への関心が広がっている。神姫バスの試みはその潮流と軌を一にしている。
地域文化と観光をつなぐ取り組み
神姫バスはバス事業を軸に地域観光を支えてきたが、近年は「Localprime」ブランドを通じ、体験プログラムや地場産業とのコラボレーションを展開している。同サイトでは兵庫県各地の人・店・文化を発掘し、記事と体験イベントを組み合わせて発信。中小事業者や若手職人との連携を強めることで、地域経済への波及を狙う。日本茶ワークショップの開催も、姫路の伝統と人材を観光資源に転化する試みの一つといえる。
兵庫県の観光地ではアクセスや集客の課題を抱える地域も多い。そうした中、都市部から日帰りで参加できる体験プログラムは移動負担の少なさが強みで、特に30代〜50代の女性層やインバウンド旅行者の関心を呼び込みつつある。神姫バスにとっても、交通・観光・地域開発の三領域をつなぐ新たな収益基盤形成に結びつく。
茶文化の再認識と地域の課題
日本茶は健康志向やサステナブル消費の高まりを背景に再注目されているが、家庭で急須を使う世帯は減少傾向にある。特に若年層ではペットボトル製品に親しむ機会が多く、伝統的な淹れ方や産地の違いを知る場が限られていた。赤松氏による解説と実演は、そうした断絶を埋める役割を担う。専門的知識を持つ地元人材が講師を務める形式は、地域内での文化承継にも資する仕組みといえるだろう。
一方で、地域食文化や伝統産業を観光資源化する動きが全国的に広がる中、「収益化」だけでなく「継続性」をどう確保するかが課題となる。少人数制イベントは質を保ちやすい反面、効率性に欠ける面もあり、地元企業の協力や行政支援の枠組みが鍵となる。政策面では「観光DX」や「関係人口拡大」といった国・県の方針と連動させることが求められる。
地域を担う企業としての役割
神姫バスは大正時代創業の交通事業者で、兵庫県西部を中心に地域インフラを長年支えてきた。交通需要の縮小や人口減少への対応として、数年前から観光・体験事業を柱に据えた「地域魅力創出」路線を強化している。Localprimeで取り上げる体験記事やツアー企画は、同社社員が取材や添乗も担い、地域の現場を伝える形式で構成されている。媒体と事業を一体化させた運営は、地方交通事業者の新しい姿を示すものといえる。
同社は今後も地域の人材や店舗と連携した体験企画を展開していく方針で、「兵庫の魅力を体感として届ける」ことを掲げている。今回の茶ワークショップはその象徴的な事例であり、食文化や茶器製作、観光ガイドとの連動が今後の拡張テーマに挙げられている。一方で、イベントの規模や情報発信体制をどのように拡大していくかが焦点となる。地域観光の担い手不足や情報発信の人材育成など、長期的な課題も残る。地元関係者からは、「企業と住民が対等に関わるしくみづくりが重要だ」との声も出ている。
文化と観光を結ぶ動きが全国的に進むなか、姫路発の日本茶体験がどこまで地域ブランド価値を高められるかが注目される。神姫バスの試みは、地方企業が自社ネットワークを用いて地域文化を再発信するモデルケースとして広がりを見せる可能性がある。今後、兵庫県内の他エリアにも同様の文化体験プログラムが波及していくかが、地域観光の新たな展開を占う指標となりそうだ。