積水化学工業株式会社(大阪市北区)は、国際的な非営利団体CDPが行う環境分野の年次評価で、「気候変動」「水セキュリティ」両分野において最高位の「Aリスト」企業に3年連続で選ばれたことを明らかにした。また「フォレスト(森林)」分野では2年連続で「A-(マイナス)」リスト入りした。世界で約2万社がスコアを付与される中での高水準評価となる。
同社は脱炭素社会や自然資本の保全に向けた取り組みを強化しており、CDPの厳格な審査基準を満たしたことが今回の評価につながった。CDPはTCFD枠組みに沿って、企業の環境ガバナンスや情報開示の充実度、リスク理解度、目標の実行性などを総合的に採点しており、投資判断やESG経営の世界的な評価基準の一つとされている。
CDP評価で3年連続「Aリスト」認定
CDPは世界最大の環境情報開示システムを運営し、各企業の気候変動対策や水管理の実効性を毎年評価している。2025年は22,100社を超える企業が情報を開示し、そのうち20,000社にスコアが付与された。積水化学はこれら多数の企業の中で、最上位評価を受けたことになる。「A」取得企業は、包括的な情報開示、成熟した環境ガバナンス、高いレジリエンスなどを備えたグローバルリーダーと位置づけられる。
CDPが開示を促す情報は、運用資産総額が127兆米ドルにのぼる640の機関投資家が投資判断や調達方針に活用しており、企業の環境対応度は資本市場に直接影響を及ぼす。積水化学にとって今回の評価は、ESG分野での国際的な信頼を裏付けるものとなった。
脱炭素目標を明確化し中期指標を設定
積水化学は長期ビジョン「Vision 2030」を通じ、気候変動への対応を経営の柱に位置づけた。2050年までに自社事業活動に伴う温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、逆算した2030年には2019年度比で50%削減する計画を進める。1.5℃目標に整合した削減率であり、国内製造業の中でも先行した取り組みとされる。同社は生産段階の省エネだけでなく、顧客領域での排出削減やリサイクル材の積極活用も経営課題に据えている。
水資源については「水リスクの最小化」と「地域課題解決への貢献」を両立させる方針を明確にした。操業地での取水影響や排水管理を適正化し、生物多様性の保全と流域単位での協働を重視する。自然資本に対してポジティブなリターンをもたらす活動を継続する姿勢だ。これらがCDPの「水セキュリティ」評価でのAリスト入りにつながった。
環境経営の推進で国際的な信頼確立
同社は住宅や高機能プラスチック、医療など多角的な事業を展開してきた。近年は環境ソリューション技術を軸に、「Innovation for the Earth」を掲げて事業構造の転換を進めている。企業活動全体を通じてサステナブルな社会形成に寄与し、事業成長と社会的責任の両立を目指す方針だ。社内では製品ライフサイクル全体での環境負荷低減や、再生可能エネルギー調達の拡大なども進行している。
ESG投資が世界的に拡大する中、積水化学が複数年にわたり最高評価を維持したことは、海外投資家の信頼確保に直結する。金融関係者からは「安定的な環境対策実績は企業価値の長期的な支えとなる」との見方が出ている。
市場全体で拡がるサステナビリティ評価の潮流
CDPの評価枠組みは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が定める国際基準に沿っており、環境リスクが財務に与える影響を可視化する点に特徴がある。欧州や北米の金融機関では、CDPスコアを投融資判断に反映する事例が増えている。業界団体の専門家は「上場企業は国際的な統一基準に基づく開示を求められており、CDPのAリスト入りはガバナンス水準のシンボルとなる」と指摘する。
積水化学が複数分野で高評価を得たことは、日本の製造業における環境経営の進展を象徴する。今後は他社の取り組みとの比較や、サプライチェーン全体での取り組み深化が問われる局面に入る。国際的なESG資本が流入する中で、環境データの質と開示範囲の拡充が日本企業全体の競争力に関わる課題となりそうだ。
持続的成長への取り組みと課題
積水化学は今後も「社会課題解決と事業成長の両立」を掲げ、製品や事業を通じた環境貢献に軸足を置く方針だ。特に気候変動と水資源への対応はグローバル市場での信頼性と直結しており、より高度なデータ開示と実効的な削減施策が求められている。これまでよりサプライチェーン全体での排出量把握や、再生素材確保の難しさなど実務面の課題も依然残る。業界関係者は「CDP評価の維持には、開示水準の持続的向上が不可欠」とみている。
ESG経営を加速させる同社の取り組みは、金融市場や行政の政策形成にも影響を与える可能性がある。脱炭素や水循環に関する国際的協働が広がる中、日本企業全体がどのように環境リスクの最小化と成長戦略を両立させていくかが主要なテーマになるだろう。