株式会社サンリオ(東京都品川区)は、創業者で名誉会長の辻󠄀信太郎が山梨県甲斐市で手掛ける「山梨いちごの王さまミュージアム サンリオ創業者 辻󠄀信太郎記念館」を2026年4月に開設することを明らかにした。同館ではサンリオの創成期を振り返る貴重な資料を展示する予定だ。辻氏の出身地に建設される点も注目される。
ミュージアムの運営主体は辻󠄀信太郎記念館で、サンリオが企画に協力する。施設は敷地面積約1万㎡、建物延床は約560㎡の規模となる。展示では創業当初の事業や「ハローキティ」誕生につながる理念を紹介し、企業文化の原点を伝える構成とする。創業者の活動を体系的に公開することで、サンリオの精神である「みんななかよく」の理念を広く発信する狙いがある。
創業60年超の歩みを資料で紹介
展示エリアは年代別に構成され、1960年の創業から現在までの歩みをたどる。キャラクターやグッズの変遷、「いちご新聞」などの出版物が並び、企業の文化的側面を理解できる場とする計画だ。辻氏が実際に使用した執務室を再現し、個人年表やゆかりの品も公開する。ミュージアム内にはショップも設けられ、展示と連動した什器や空間設計を採用する予定だ。
所在地は甲斐市竜王新町1860番4。中央自動車道・双葉インターチェンジから車で約5分の位置にあり、専用駐車場(約40台)を備える。入館は事前予約制とし、予約方法などの詳細は公式サイトで追って告知される。同施設は既存のエンターテインメント施設である「サンリオピューロランド」(東京都多摩市)や「ハーモニーランド」(大分県速見郡)とは異なり、創業史を軸にした資料館的性格を持つ。
創業精神を継承する企画
辻󠄀信太郎は1927年生まれ。山梨県庁勤務を経て1960年に山梨シルクセンターを創業し、後にサンリオへ社名を変更した。理念は「人は一人では生きられない。みんなでなかよく助け合って生きていこう」という信念に基づく。これが「小さな贈り物にメッセージを添えて人をつなぐ」という企業方針を生み、キャラクター事業やテーマパーク運営といった多角的展開の基盤となった。
今回のミュージアムには、辻氏が創刊以来50年にわたりメッセージを寄せてきた広報紙「月刊いちご新聞」に関連する資料も展示される予定である。「いちごの王さま」は辻氏自身を象徴するキャラクターとして知られ、サンリオファンとの交流を続けてきた存在だ。ミュージアム名に冠されたこのキャラクターを通じ、創業当初の理念を改めて形にする意味合いがある。
山梨に根ざした文化拠点へ
山梨県甲斐市に立地する施設は、創業地の原点を一般公開する意義を持つ。サンリオにとって山梨は経営誕生の地であり、創業当時はシルク製品の販売を手掛けていた。その後、ギフト文化に着目してキャラクタービジネスへ転換した経緯がある。今回の建設は、同社が60年以上にわたり国内外で築いたブランド価値を地域文化と結びつける動きともいえる。
山梨でも果樹やクラフト産業などを軸とした観光施設の整備が進み、県外からの来訪者の交流拠点づくりが課題とされてきた。辻󠄀記念館はこうした地域観光振興の文脈の中で、地元出身の実業家による文化的寄与の事例と評価される。
地域連携と運営上の注目点
施設の開設までに約1年半をかけ準備する計画で、運営面では予約制の導入により動線管理を徹底する。展示・販売・駐車設備を一体的に設計し、観光シーズンやイベント時の来訪者対応を見据える。甲斐市内では他の観光拠点との連携も課題となるため、自治体や地元事業者との協力体制が焦点となりそうだ。
サンリオでは近年、国内外のブランド展開に加え、教育・文化の分野への寄与も模索している。創業理念を文化資産として次世代に伝えるこうした取り組みは、企業史の保存のみならず、地域観光や教育活動の拡充にもつながる可能性がある。今回の記念館開設は、企業創業者の思想を地域に還元する流れの一例といえる。