株式会社リコー(東京都大田区)は2025年12月8日、Googleのオープンモデル「Gemma 3 27B」を基盤にした日本語大規模言語モデル(LLM)の次世代版を開発したと発表した。リコーが長年培ってきた独自のモデルマージ技術を適用し、同規模クラスの他社モデルと同等の性能を実現したという。構成が270億パラメータと小型ながら高性能を保つ点が特徴で、オンプレミス環境での導入を想定した設計となる。
今回の開発は、企業や自治体などが外部クラウドに依存せず生成AIを自社運用できるようにする狙いがある。生成AI分野では情報セキュリティや電力負荷が課題となる中、リコーは省エネルギーモデルの提供で需要に応える姿勢を示した。エフサステクノロジーズおよびリコージャパンと共同で、対話型生成AI基盤への搭載や運用支援までを一体で提供し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しするとしている。
270億パラメータ実装 高性能LLMで業務支援
リコーが開発した新LLMは、指示追従能力を持つ複数の「Chat Vector」をベースモデルに統合し、文書理解や対話応答の精度を引き上げた。約1万5000件の日本語指示データを活用した追加学習で、生成精度の安定化も図った。同社による日本語ベンチマーク「ELYZA-tasks-100」および「Japanese MT-Bench」による評価では、米OpenAIが公開する「gpt-oss-20b」など先端モデルと同等スコアを示したという。非推論型モデルの特徴を生かし、初期応答速度の短縮にも成功した。これによりコールセンターや文書自動作成など、応答性が重視される業務分野での利用を想定している。PCサーバ上で動作可能なため、専用GPUやクラウド接続を不要とし、導入コストと環境負荷の低減を両立させる。
3社連携強化 12月下旬からオンプレ提供
2025年12月下旬からは、エフサステクノロジーズの提供するオンプレミス向け対話型生成AI基盤「Private AI Platform on PRIMERGY(Very Smallモデル)」に量子化モデルを搭載した形で、リコージャパンが販売を担当する。併せて生成AI開発プラットフォーム「Dify」もプリインストールし、ユーザーがコード記述なしに業務向けAIアプリを構築できるようにする。エフサステクノロジーズは導入支援と人材育成を担当し、専門知識がない企業も段階的にAI活用を始められる体制を整える。ハードウェア面では、エフサステクノロジーズが開発から品質保証まで一貫して担当し、信頼性を高める構成となる。
AI研究40年 画像認識から言語処理へ拡大
リコーは1980年代からAI研究を進め、2015年には画像認識技術を活用した外観検査システムを発売した。自然言語処理分野には2021年に本格的に参入し、コールセンター業務や文書分析用AIを展開してきた。2022年からLLM研究を開始し、その翌年には独自の言語処理対応モデルを開発するなど、段階的に事業領域を拡大してきた。今回開発したLLMは、リコーが出願中のモデル統合技術の実用化を初めて商業化した例にあたる。この技術は既存モデルを効率的に統合することで、従来より少ないリソースで高性能を実現する。業界ではGPU確保や電力消費抑制が課題となっており、こうした軽量化技術の進展は持続可能性の確保にも寄与すると見られる。
市場拡大続く ガイドライン整備進む動き
生成型AIを自社運用しようとする動きは、2024年以降、官公庁や金融機関を中心に広がっている。クラウド依存を避けたい企業の間でオンプレミス型AI基盤への関心が高まっており、今回のリコーの動きもこの流れに沿う。政府や自治体、教育現場では生成型AIの活用ガイドラインの整備が進み、情報管理と倫理面でのルール作りが進展している。企業側にも透明性と安全性を確保したAI活用が求められる中、オンプレミス導入はガバナンス対応策の一つとして評価されている。
エフサステクノロジーズの山田雅夫社長は、リコーのモデル搭載について「高性能LLMと自社プラットフォームの組み合わせにより、さまざまな顧客が安全に生成型AI活用体制を構築した」と述べた。リコーのAIサービス事業本部の担当者も「三社の技術力を統合して多様な産業課題を解決していく」と語った。関係者は、国産LLMが本格的に実用段階へ移行した例として評価している。海外モデルが主流の中、日本語最適化技術を有するリコーの取り組みは、国内の開発基盤の拡充を後押しするとの見方がある。
推論強化へ 本格的マルチモーダル展開視野
リコーは今後、論理推論性能の向上と画像・音声・テキストを統合したマルチモーダル機能の強化にも取り組む予定だ。すでに音声認識やエージェント開発にも着手しており、製造・教育・自治体向けの業種特化モデルの開発を次の段階としている。今後は、顧客業務の課題に合わせた活用を通じ、オフィス現場のDX推進を支援する方針を示している。