ピクシーダストテクノロジーズ株式会社(東京都中央区)は、福岡空港の国際線エアラインラウンジ「ラウンジ福岡」の受付に、AI搭載のリアルタイム翻訳ディスプレイ「VUEVO Display(ビューボ ディスプレイ)」を導入したことが明らかになった。九州最大級の国際拠点空港である同空港において増加する外国人利用者に対応し、受付業務の多言語コミュニケーションを円滑にする狙いがある。
同社は今回の導入を、来場者との対応精度を高める新しい取り組みと位置づける。透明ディスプレイ越しに音声を即時翻訳して表示する仕組みにより、受付スタッフと来場者が互いの表情を見ながら自然に会話できる環境を実現することを目的とした。省スペース設計で航空ラウンジのカウンターなど限られた空間にも対応できる点が採用理由のひとつとされる。
空港特有の雑音環境に対応したAI通訳装置
VUEVO Displayは、音声をリアルタイムで翻訳し、透明ディスプレイの両面に多言語字幕を表示できる装置である。高精度マイクによる集音とAI音声認識技術を組み合わせ、空港特有の雑音下でも正確に音声を拾える点を特徴とする。同社によると、従来のハンディ型翻訳機では周囲の騒音や端末配置の制約により翻訳精度が安定しない課題があったが、ディスプレイ型にすることでこの問題を軽減した。
また、英語・中国語・韓国語など複数言語に対応しており、来場者の母語によらず案内内容や入室条件を容易に共有できるため、受付スタッフの業務負担が軽減され、利用者満足度の向上につながる効果が見込まれている。
インバウンド拡大に対応した導入背景
福岡空港では国際線旅客数の増加が続いている。特にアジア地域からの観光客が増え、航空会社共用ラウンジの利用者も中国語や韓国語圏の比率が高まっている。これにより受付業務では、搭乗条件やサービス内容に関する多言語対応の需要が急速に高まっていた。背景には、従来の翻訳ツールでは多言語モード間の切り替え負荷が大きく、同時対応の効率を高められなかったことがある。
その結果、省スペースで高精度な通訳支援を実現できるシステムが必要とされ、同社の技術が採用された。雑音環境や作業効率といった空港特有の制約を前提とする運用で、既存のスマートデバイス型翻訳機との併用効果を検証するケースも出ており、多言語接客のデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として注目されている。
波動制御とAI技術を融合し事業領域を拡大
ピクシーダストテクノロジーズは、2017年設立の技術系スタートアップで、音や光を制御する独自の波動制御技術を基盤として、AIやメタマテリアルを応用した各種製品を展開してきた。今回のVUEVOシリーズでは、声を解析・翻訳するだけでなく、透明スクリーンに直接字幕を映し出す仕組みを取り入れることで、対面コミュニケーションの自然さを損なわない点を重視している。
同社は「ヘルスケア&ダイバーシティ」と「ワークスペース&デジタルトランスフォーメーション」の二分野に注力しており、空港やホテルなどの公共空間では後者の領域で製品を提供している。
空港や宿泊施設では、同様の音声翻訳ソリューション導入が増加しており、聴覚障がい者へのコミュニケーション支援にもつながるとみられている。来日客増加が続くなか、多言語対応を支えるDX技術の現場実装が加速しており、ピクシーダストテクノロジーズのVUEVOシリーズの活用範囲が広がるかが今後の注目点となる。