パナソニックITS株式会社(神奈川県横浜市)は2025年12月3日、企業の総務部門が主導する取り組みを表彰する「総務アワード2025」でゴールドを受賞したことを明らかにした。受賞対象は、社員666人とその家族が一体となって働き方や交流の在り方を考える「ITS式ウェルビーイングの高め方(提案×畑×発信)」と題したプロジェクトである。開催初年度の表彰で、上位3施策に選ばれた。
同アワードは株式会社月刊総務が主催し、全国から100社を超える応募の中からファイナリスト5社が最終プレゼンに臨んだ。パナソニックITSは従業員の巻き込み力や戦略総務としての実践性が総合的に評価された。
パナソニックITSによると、表彰に至った背景には「総務を経営に近い立場から変革を支える存在へと進化させる」という社内での意識転換があるという。同社の企画課は「カルチャーデザイナー」として人のつながりや社内のファン作りを促す活動を重ね、従業員一人ひとりが自ら提案し行動できる風土を整えてきた。こうした現場主体の取り組みが、企業文化全体の活性化につながる点で評価を受けた格好だ。
審査委員会は、総務が単なる管理機能にとどまらず、企業変革の担い手として新しい価値を示した点を受賞理由に挙げている。
社員666人と家族が参加 体験と発信の循環を構築
受賞した施策は、同社の全社員666人とその家族を巻き込みながら、従業員の幸福度向上と企業価値創造の両立を目指すものだ。活動テーマは「提案」「畑」「発信」の3本柱で構成され、社員や家族が共にアイデアを出し合い、社内外へ情報を発信する仕組みを整えている。総務部門がこれらを統合的に運営し、組織全体のウェルビーイング(心身の健康と充実)を高めることに主眼を置いた。こうした運動を支える総務部門の企画力が「戦略総務」の実践として認められた。
初開催で100社超が応募 「前に出る総務」を象徴
総務アワード2025は、企業の総務部門が自ら主導し新しい価値を創造する事例を顕彰する新設制度だ。初回開催となる2025年度は全国から100社を超える応募があり、3次選考を経て5社がファイナリストに選ばれた。審査では、事業部門との連携、従業員の創造性を引き出す仕組み、総務自身の学びと楽しみを両立する姿勢が高評価につながった。
主催する月刊総務は、これらの取り組みを他社にも共有し、総務機能の高度化を進める狙いがある。受賞事例は2026年2月8日発売の同誌別冊に掲載を予定し、ライブイベントの様子はオンラインでもアーカイブ配信される。同アワードの創設により、総務を起点とした企業間の知見循環が本格化するとみられる。
総務が担う「人」と「経営」をつなぐ役割に注目
パナソニックITSは、パナソニックグループにおける車載システム事業の中核企業で、「クルマの未来をつくる知的創造集団」を標榜する。横浜市に本社を置き、モビリティ関連の制御・通信技術設計などを手がける企業だ。同社では近年、事業の多様化に合わせて組織文化の刷新を進めており、働き方の柔軟化、健康経営、ダイバーシティ推進といったテーマを統合的に扱う「アドミニストレーションセンター」を運営している。今回の受賞は、こうした人材活用の方向性が成果として認められたものといえる。
一方で、従業員の自律的な成長を支える仕組みづくりは、多くの企業に共通する経営課題でもある。総務部門が制度設計だけでなく現場に歩み寄る姿勢を示すことは、企業文化の成熟を映す指標となりつつある。業界関係者の間では、パナソニックITSのように社内にファンを育てる総務のあり方が、次世代の人材マネジメントに新しい潮流をもたらすとの見方が広がっている。
他企業にも波及へ 人的資本経営の実践例に
パナソニックグループ全体では現在、人的資本経営を重点テーマに掲げており、「人をつくり人を活かす」という経営基本方針のもとで多様な人材の潜在力を最大化する取り組みを拡大している。ITSの事例はこの方針とも連動し、社員が自らの技能と感性を持ち寄って価値を創造する動きの一環と位置づけられる。
受賞を受けて同社関係者は「働くことを楽しむという文化が生まれ、総務が経営の推進役になり始めた」と述べた。総務アワードを機に、企業の管理部門が経営変革の先導役を担う動きが一段と広がるかが注目される。特に、従業員エンゲージメントを経営指標に組み込み、人的資本の価値を可視化する流れが強まる中で、今回のケースは一つの実践事例として注目されるだろう。今後は、企業がいかにして従業員と家族を含むコミュニティ全体を巻き込み、長期的な企業価値向上へ結びつけるかが焦点となる見込みだ。