日鉄興和不動産株式会社(東京都港区)は12月12日、農業分野に新規参入し、株式会社日本農業(東京都品川区)と共同で「日鉄興和不動産農業株式会社」(北海道室蘭市)を設立したと発表した。第1弾として、北海道室蘭市に保有する約5ヘクタールの遊休地を活用し、2026年4月から高密植栽培によるりんごの生産を始める。新会社を通じて地域と連携した農地運営を進め、持続的収益の確立を目指す。
同社は長年にわたり製鉄所跡地の再開発を進めてきたが、地域課題の解決を新たな事業領域と位置づけた。今回の参入により、土地開発と農業を組み合わせた「アグリデベロッパー」として、遊休地を再生し地域雇用の創出につなげる狙いがある。支援する。
日本農業は生産から販売・輸出まで一貫して手がける企業で、ノウハウを生かして事業の構築を支援する。
室蘭市で4・75ヘクタール開園、高密植で生産効率化
第1弾の事業地は、日鉄興和不動産が保有する北海道室蘭市幌萌町の遊休地約4.75ヘクタール。2026年春に約0.77ヘクタール、翌2027年に約3.98ヘクタールを順次開園する計画だ。
採用する高密植栽培は、一般的な方式の約3倍にあたる1反当たり約6トンの収穫が見込めるとされる。果樹を一直線に植えることで作業導線を単純化でき、収穫や剪定などの効率化が進むのが特徴だ。
りんごを選定したのは、近年の温暖化で生産適地の北上が進み、室蘭市が新たな栽培地域として適していることを確認したためだ。国内消費の堅調さに加え、輸出拡大の余地もあるとみられ、成長性の高い作物と判断した。日本農業が青森などで培ったノウハウを取り入れ、品質や生産性を両立させる仕組みを構築する。
不動産事業の延長で農地活用、10年で100ヘクタール目指す
日鉄興和不動産は、日本製鉄の製鉄所跡地を活用した街づくり事業を展開してきた。これまで室蘭市では商業施設「モルエ中島」や住宅開発などを手掛け、行政との信頼関係を深めてきた経緯がある。こうした地縁を生かし、農業事業でも地域の行政と協調的に事業構築を進める方針だ。
同社は2024年にスマート農業スタートアップ「AGRIST株式会社」へ出資し、AI を用いた自動収穫システムなどの技術連携を始めている。
将来的には、遊休地活用を全国に広げ、10年間でおよそ100ヘクタール規模の生産体制を目指すとする。りんご以外にも土地特性に適した作物の導入を検討し、観光農園や宿泊施設の整備など多面的な土地活用も視野に入れる。
農業参入の背景に担い手不足 「鉄のまち」が次の舞台に
日本の農業は高齢化と人手不足に直面しており、農林水産省によると果樹の耕作面積と農業者数は2030年には2020年の半分にまで減少する見通しだ。りんごに関してもこの10年で3,300ヘクタール減少しており、企業の農業参入が生産維持の鍵となっている。こうした構造的課題の中で、不動産企業による参入は近年増加傾向にある。
室蘭市は「鉄のまち」として発展してきた地域だが、製鉄業の縮小とともに雇用機会の確保が課題となっている。
日鉄興和不動産農業の鈴木誠治社長は、商業開発や宅地供給を通じて支えてきた地域で「農業による地域活性化に挑戦する」と述べ、事業を通じて耕作放棄地対策や雇用創出につなげる考えを示した。
関係者が期待示す 持続的モデル構築へ
日本農業の内藤祥平CEOは、国内の果樹農業の縮小が進む中で「高密植栽培の普及と企業参入が生産量維持に不可欠だ」と指摘する。その上で「室蘭で高密植りんご生産に取り組めるのは心強い。これまでの知見を生かし、地域に根ざした持続可能なモデルを確立する」と語った。
両社は共同事業により国内外への出荷網整備も視野に入れており、生産・販売・輸出の一体運営による効率経営を進める。室蘭市経済部も協力姿勢を示しており、産業再生の新たな実践例として注目を集めそうだ。
制度支援と市場拡張に注視、企業農業の展開広がる
政府は2030年までに輸出額5兆円、食料自給率45%の目標を掲げ、法人の農業参入を後押ししている。
日鉄興和不動産の新事業は、こうした政策潮流の中で遊休地を再生する取り組みとして位置づけられる。今後、農業ビジネスへの異業種参入はさらに広がる見通しで、企業ごとの土地活用力が競争軸となることが予想される。
不動産開発で培った地域調整力と、農業企業の生産技術を掛け合わせる今回の動きは、産業再編の一形態として関係者の注目を集めている。
日鉄興和不動産は、都市再開発と農業の両面で地域価値向上を目指す事業展開の一環として、この流れを加速させる構えだ。