市民生活協同組合ならコープ(奈良市)は、情報通信技術(ICT)を活用した「なら近大農法(ICT農法)」で栽培したいちごの出荷を始める。2026年6月末まで販売を予定しており、まずコープなんごうで取り扱い、翌年1月中旬からは県内の各店舗に展開する。これまで同組合が実施してきた農業参入の取り組みの一環で、全国の生協としては初のICT農法導入事例となる。
ならコープが担当し、農学指導を近畿大学農学部農業生産科学科の野々村照雄教授(アグリ技術革新研究所兼務)が行う。ICT農法によるメロンといちごの栽培は、産官学連携事業として2023年9月から始まり、今回の出荷はその実証成果の一部となる。
農作業を自動化し、省力化と収穫量増を両立させる仕組みで、同組合の地域雇用促進の取り組みに位置づけられている。
ICT農法いちごを2,000パック出荷
販売するいちごは奈良県特産の「古都華」と「ならあかり」の2品種で、計2,000パックを出荷する計画だ。販売店舗は順次拡大し、コープ学園前、コープ朱雀、コープ七条、コープいこま、コープたつたがわ、コープいまご、コープみみなしにも広げる予定とした。
販路拡大を通じて、組合員に対する地産地消のさらなる浸透を目指す。
ICT農法では、温度や湿度などの管理を自動化し、環境条件を解析しながら遠隔制御が可能になる。
作業効率化により、農業初心者でも作物管理が行いやすく、生産性の改善や品質の安定が見込まれている。
今回の取り組みは、同組合が手掛ける農業部門での技術的転換点となる。
農業参入の経緯と連携拡大
ならコープは2022年から農業事業に参入しており、ホワイトコーンやメロン、さつまいも、白菜などを生産してきた。地産地消を掲げ、耕作放棄地の有効活用と地域雇用の促進を進めている。
今回のいちご栽培は、こうした流れの延長線上にあり、地元の大学との連携強化を通じた新たな農業モデル構築を狙う。
背景には、国内で農業人材の高齢化や後継者不足が進む中、ICTによる生産支援の必要性が高まっていることがある。自動制御技術を活用した仕組みの導入により、従来の労働集約型からデータ活用型への転換を図り、労働負担軽減と持続的な地域農業経営の両立を目指す狙いがある。
地元連携で持続的農業を模索
野々村教授は、農業生産科学分野でICT導入による効率的な作物管理を研究しており、学術的知見に基づく技術支援を担う立場だ。
同大学の研究設備と現場実証を結びつけ、地域生協による農業参入の成功モデル構築に取り組んでいる。産官学連携の枠組みを活用し、研究成果を地域経済の活性化へつなげる形となった。今回のプロジェクトについて「初心者でも品質の高い栽培管理ができる技術体制を整えることで、農業の敷居を下げる」との考えを示している。
ならコープは今後、ICT農法の適用対象をメロンや他の主要作物にも広げる方針を示しており、地域内の生産基盤整備を進める。
農産物の安定供給と耕作放棄地の再生を目的に掲げ、継続的な運営体制の確立を図る予定だ。
今後は、生協間での情報共有や共同実証の動きも注目される。
今回の取り組みは、農業の省力化と地域共創を両立させる実践例の一つであり、協同組合が主導する技術導入の流れの中に位置づけられる。