株式会社三菱UFJ銀行(東京都千代田区)と三菱UFJ信託銀行株式会社(同)は15日、米国の中堅企業に対するシニア・ローンへ投資する新ファンド「MUFG US Direct Lending Fund I」の運用を開始した。 本ファンドは国内の適格機関投資家や企業年金基金を主たる投資対象とし、約9年の運用期間を予定する。
両社は世界的に拡大するプライベート・クレジット市場において、銀行系投資主体による安定的な貸出資金供給を目的として本ファンドを設立した。運用主体は三菱UFJ信託銀行で、投資対象ローンの組成は三菱UFJ銀行が担う構成で、従来のM&Aファイナンスファンドに続くオルタナティブ投資の第三弾となる。目的はリスクを抑えつつ安定的なキャッシュフローを生む資産形成枠組みの拡充にある。
総額500億円規模で運用開始
MUFG US Direct Lending Fund Iの目標規模は500億円であり、2025年10月には初回募集分として290億円のファースト・クローズを実施している。年率換算で4.0〜4.5%の円ヘッジクラスを目指し、報酬などを控除した後の純ベース想定リターンに設定した。資金は主に国内機関投資家および企業年金基金から集められ、投資先は三菱UFJ銀行が米国市場で組成するシニア・ローン案件に分散投資される。
同ファンドはミドルリスク・ミドルリターンを指向し、従来のプライベート・クレジット・ファンドが担ってきた領域を銀行の融資基準に適合した枠組みで展開する点が特徴である。米国金融当局の規制に準拠した条件下で組成され、信用力と担保付与を重視したポートフォリオ形成により、長期安定運用を目標とする。
オルタナ投資拡大の流れ
三菱UFJ信託銀行は、2022年にオセアニア地域のM&Aファイナンスファンドを立ち上げ、翌2023年には国内M&Aファイナンスに投資するファンドを設立した。今回のMUFG US Direct Lending Fund Iはそれらに続く三つ目の案件であり、米国ダイレクト・レンディング特化型の初のファンドとして位置づけられる。同行は近年、オルタナティブ(代替)資産分野への展開を中長期戦略の柱に掲げ、投資先分散と機関投資家向け運用商品の多様化を進めてきた。
背景には、伝統的な債券市場の利回り低下と、企業融資に対する民間資金の新しい供給経路としてのプライベート・クレジット市場の拡大がある。特にダイレクト・レンディングは、非公開企業の資金需要に対応できる手段として成長しており、銀行や地方金融機関も参入を強めている分野である。三菱UFJ銀行は米国市場での実績を活かし、同行グループ内での融資ノウハウを活用する形でファンドの基盤を形成した。
安定収益志向の投資需要に対応
プライベート・クレジット市場は、金利変動や地政学リスクの高まりによる不確実性が続く中、元本毀損リスクを抑えたレンディング型商品の需要が国内で拡大している。MUFGグループによる新ファンドは、そうした機関投資家の安定志向を取り込む狙いがある。同行は、銀行の与信判断を基礎にした案件選別や融資条件の厳格運用を通じて、クレジット品質を担保する方針である。
業界では、想定利回りやリスクバジェットの最適化に加え、為替ヘッジ、資本コール管理、担保コベナンツ監視などの運用要素が注目点とされる。運用当局や投資家間のガバナンス強化が求められる中で、銀行系が主導するエクイティ資金の流通経路拡大は、金融機能の再構築にも寄与するとみられる。専門家の間では、ダイレクト・レンディング分野での銀行主導型商品は信用リスク管理の面で優位性を持つとの見方もある。
制度・運用両面で整備進む
米国のプライベート・クレジットは、非上場企業の資金調達手段として定着が進んでいる。これまで主に専門ファンドが担ってきたが、バーゼル規制や銀行融資のポートフォリオ管理体制が整うにつれ、商業銀行も再びプレイヤーとして影響力を強めている。現地銀行間での案件スクリーニングや法的ストラクチャリングも制度的に整備されつつあり、日本の機関投資家にとっても参入しやすい環境が整ってきた。
今後の展望と課題
三菱UFJ信託銀行は今後もオルタナティブ投資商品の開発を継続し、国内の資産運用市場における選択肢拡大を進める方針である。同行グループは、ファンド設立による金融ソリューションを通じ、長期的な投資機会を創出し、資産運用立国の基盤強化に寄与する考えを示している。市場の流動性や信用評価の透明性確保など、運用実務上の課題は残るが、銀行系列による直接融資型商品の整備は今後の資産多様化の一環として注目される。
今回の動きは、三菱UFJグループが世界的な信用市場変化に対応し、日本の機関投資家に新たな資産運用チャネルを提供する流れの一環と位置づけられる。