三菱鉛筆(東京都品川区)は12月16日、ウイスキーを熟成させた樽の木材を再利用したボールペン「ピュアモルト」シリーズをリファインし、新設計モデル「ピュアモルト ジェットストリームインサイド シングル」と、新色を加えた多機能タイプ「同4&1」を発売すると明らかにした。新設計のジェットストリームインサイド シングルは樽材を全体に用い、木の質感と経年変化を楽しめる設計だ。ジェットストリームリフィルを搭載することで、機能性と素材の魅力を両立させた。
同社は自然資源の有効活用を掲げ、「役目を終えた素材に新たな命を吹き込む」という理念のもと、サステナブルな商品づくりを進めている。今回の再設計は樽材の再利用を象徴的に打ち出すシリーズとして位置づけられ、素材の循環利用を軸にした事業方針を一段と鮮明にする狙いがある。
ウイスキー樽材を軸に使用、2モデルを同時投入
新設計の単色ボールペン「ピュアモルト ジェットストリームインサイド シングル」は、樽材を全体に用い、木の質感と経年変化を楽しめるよう設計されている。シンプルな板クリップや紙製パッケージを採用し、ギフト用途にも対応したデザインとした。多機能モデル「ピュアモルト ジェットストリームインサイド 4&1」は、黒・赤・青・緑の4色インクとシャープを備える。新たに深林をイメージしたフォレストグリーンと、ウイスキーの琥珀を思わせるアンバーオレンジの2色を追加し、シリーズ全体の世界観を広げた。
両モデルはいずれも同社の主力である「ジェットストリーム」インクを採用する。筆記荷重に左右されず滑らかな書き味を保つ特性から、国内外の利用が定着しており、同シリーズの年間販売本数は世界で1億本を超える。これらの技術基盤を応用することで、天然素材を活かしながらも日常使いに耐える機能性を実現した。
1979年に開始された樽材再利用、熟成技術で深化
「ピュアモルト」シリーズは、原酒の熟成を終えた樽を削り出してペン軸に加工する独自手法で知られる。樽としての役割を終えたオーク材は強度が高く、独特の香りと木目が特徴だ。同社は1970年代後半からこうした再利用に取り組み、廃棄物の削減と天然素材の価値再発見を両立させてきた歴史がある。ペン軸に生まれ変わった樽材は、手に触れるうちに色艶が深まり、使用者ごとに異なる風合いを帯びていく。長く愛用するほど味わいが増すという点が、シリーズの根強い支持を支えている。
一方、近年は素材の再生利用や環境配慮型製品への関心が世界的に高まっている。同社も「uni MATERIAL JOURNEY 旅する素材。」というテーマを掲げ、紙や木、金属など多様な素材を循環的に活かす製品群を展開中だ。今回の刷新は、その中心的位置づけにある「ピュアモルト」を改めて環境配慮型ブランドとして明確化するものとなった。
持続可能な素材活用が進む文具業界
筆記具業界全体でも、素材調達や生産過程での環境対応を強化する動きが広がっている。国内メーカーはリサイクルプラスチックや再生紙の使用割合を高め、海外勢でも森林認証材や再生樹脂を活用する製品が増えている。三菱鉛筆は、環境・社会・ガバナンス(ESG)を意識した生産と素材利用を柱に据え、サステナビリティ関連の自社プロジェクトを拡充してきた。今回の樽材再利用モデルは、その流れを具体化した取組みだといえる。
業界関係者の間では、同社の長期的な研究開発力と、素材のストーリー性を併せ持つ商品設計が注目を集めている。樹脂製品中心から木材や金属を取り入れた設計への移行は、今後の高付加価値モデルの方向性を示すものとの見方もある。
資源循環を消費社会に根付かせる挑戦
三菱鉛筆が掲げる「違いが、美しい」理念のもとでは、素材の個性と再利用価値を結びつける設計思想が貫かれている。今回の「ピュアモルト」刷新は、単なるデザイン変更にとどまらず、循環型の製造思想を消費者向け商品に落とし込んだ点に特色がある。企業が環境課題にどう向き合うかが社会的評価に直結するなか、日本の伝統工芸や木工技術にも通じる“素材を活かす発想”が国内製造業に再評価の波をもたらしつつある。同社の取り組みは、文具分野における資源循環の象徴的な事例として注目されるだろう。
ただ、環境配慮製品の普及には、供給コストや素材調達の安定性といった課題も残る。市場拡大と環境対応をいかに両立させるかが業界全体の共通課題であり、今後の製品開発では素材ごとの最適活用法を探る姿勢が問われそうだ。