株式会社三菱マテリアル(東京都千代田区)は2025年12月10日、2026年4月以降の新たな経営体制を決定したことを明らかにした。代表執行役常務の平野華世氏が代表執行役に昇格し、現任の髙柳喜弘氏が退任する。新経営体制のもと、同社は資源循環型ビジネスの拡充と企業価値向上を掲げる。体制強化を進める。
今回の人事は、脱炭素化やリサイクル強化を中心とする経営方針の実行力を高める目的がある。同社は「資源循環ビジネスで未来を創る」を企業理念に据え、財務・環境両面での持続可能な成長を重視する姿勢を明確にしている。経営体制を刷新することで、サステナビリティ経営の加速を図る方針だ。
平野氏が新代表執行役に就任
平野華世氏は1974年生まれ。会計士事務所を経て、監査法人やモルガン・スタンレー証券、LIXILグループなどで財務・IR領域を担当した。2022年に三菱マテリアルに入社し、経理財務部長を経てCFO(最高財務責任者)として経営の中枢を担ってきた。今回の昇格により、財務基盤の強化や調達・資源事業を担当する。 同社は、現代表執行役常務の髙柳喜弘氏をはじめ、石井利昇氏、小原和生氏の3名が執行役を退任する。経営の代謝を促し、中期計画の実行を支える布陣と位置づけている。
執行役には新たに足立美紀氏と井上達也氏が2026年4月1日付で昇格する。足立氏はイノベーションセンター長として研究開発を統括しており、新体制ではCTO(最高技術責任者)としてデジタル戦略、生産技術、知的財産分野を管掌する。一方、金属事業カンパニーで資源循環事業部長を務めた井上氏は、国内外での製錬・リサイクル領域を統括する役割を担う。 経営陣の再編により、財務・技術・素材の三軸で意思決定と現場の実行力を一体化させる体制が整う。
循環型事業での競争力確保へ
三菱マテリアルは「人と社会と地球のために、循環をデザインし持続可能な社会を実現する」を経営理念とし、近年は非鉄金属リサイクルと再生可能エネルギーの活用を柱とする事業変革を進めている。主軸となる金属・資源循環事業では、銅・タングステンなどの再資源化を推進している。欧米では二次原料製錬所の新設を計画し、国内ではEScrap処理能力の倍増も視野に入れる。2035年度には温室効果ガス(GHG)の排出を2020年度比65%削減、2040年度には82%削減する目標を掲げる。2050年度より5年早い2045年度でのカーボンニュートラル達成を掲げ、再生可能エネルギーによる実質自給を目指す。
サステナビリティ経営を意思決定に位置づけ
今回の人事では、経営体制の中にサステナビリティ推進の役割が再編された。執行役社長でCEOの田中徹也氏が引き続き経営戦略とサステナビリティ推進を統括し、平野氏が調達と資源事業を担う。足立氏はSCQ(安全・法令遵守・品質)体制の推進と再エネ事業に関与し、野川真木子氏が人材戦略とガバナンス領域を担当する。複数の課題が複雑に交錯する中、経営層が分野横断で連携することで、環境・人材・品質の三領域を一体で管理する新体制が築かれる。
2年連続「Aリスト」評価で外部からも高評価
2025年12月、同社は国際環境NGOのCDPから「気候変動分野」で2年連続となる最高評価の「Aリスト」企業に選ばれた。EScrap処理能力の拡充や再エネ投資など、脱炭素経営の実践が評価された。 この評価は、金融市場での気候関連情報開示の信頼性向上にも寄与しており、IR戦略を担当してきた平野氏の手腕が社内外で認められている。市場関係者の間では、財務と環境経営を一体化する「グリーン・ファイナンス経営」を体現する人事とみる声もある。
資源循環を軸に事業間シナジーを拡大
三菱マテリアルは金属・加工・電子材料など多様な事業を展開しており、それぞれのプロセスで廃材や副産物の再利用を強化している。特に製錬技術を生かしたリサイクル事業の高度化が急務であり、欧州や東南アジアでの拠点整備も検討されている。こうした動きは、政府が掲げる循環型社会形成推進基本計画との整合性を意識したものであり、資源効率と環境配慮を両立する「サーキュラー・エコノミー」の実装に直結する。同社の方針は非鉄業界全体にも波及しつつある。
新体制発足後は、平野氏を中心とした財務・資源循環分野の最適化が焦点となる。原料価格や為替など外部要因の変動リスクを抑制しつつ、リサイクル素材の供給網を安定化させる仕組みづくりが急がれる。また、若手経営陣の登用により意思決定が迅速化する一方で、グローバル子会社を含めたガバナンス体制の統一も課題に浮上している。環境価値を軸にした経営への移行が進む中、脱炭素と資源循環を両立させる戦略実行力が問われる局面を迎えており、今後の経営判断が市場の注目を集めるだろう。