明星大学(東京都日野市、学長:冨樫伸)は、2026年2月から強度行動障害のある人への支援に対応できる人材を養成する「強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践)」を開講することを明らかにした。東京都から研修指定事業者として認可を受け、大学が主体となって同研修を実施するのは全国で初めてとなる。人文学部福祉実践学科が運営を担い、大学教員と福祉施設の管理者が連携して実践的な支援スキルを学べる内容とする。
今回の取り組みは、強度行動障害のある人への支援体制を全国的に底上げすることを目的にしている。明星大学は理論教育を担い、社会福祉法人の管理者らが実践演習を監修することで、学術知と現場知を組み合わせた研修モデルを構築した。基礎および実践研修を通じ、将来的に中核的な支援人材や広域的支援人材へと進むための基盤形成を目指す位置づけにある。
明星大学が養成研修を開始
研修はオンデマンド講義と対面授業の組み合わせで構成される。オンデマンド講義は2026年2月1日から同月20日まで行い、続いて2月27日に基礎研修、2月28日と3月1日に実践研修をそれぞれ日野校で実施する予定だ。対象は福祉施設職員や支援者などで、全課程を修了した受講者には大学から修了証書が交付される。
講師には、福祉実践学科の吉川かおり教授、妹尾和美教授、縄岡好晴准教授のほか、東京都手をつなぐ育成会や社会福祉法人一燈会の施設長が名を連ねる。大学側と現場管理者が合同で教育を行う点が特徴で、従来の行政主導型研修にはない継続的学習形式を採用する。申込は2026年1月16日まで受け付ける。
理論と現場知を結ぶ研修構成
縄岡好晴准教授は、「基礎・実践研修は中核人材育成の土台であり、大学での体系的な学びを通じて安定した支援視点を身につけてもらう設計とした」と説明する。理論講義では行動特性や支援技術の理解を重視し、実践研修では現場判断のためのケーススタディを行う。現場の課題を反映した内容を組み込み、学んだ知見を即座に支援現場で活用できるよう工夫している。
この枠組みは、東京都福祉政策の下で制度化された研修体系に基づく。明星大学は認可を受ける中で、大学ならではの教育資源を生かして人材育成のモデル化を進めてきた。講義設計への社会福祉法人の参画により、課題解決の具体性を高めた点が特徴とされる。
背景に広がる人材育成格差
強度行動障害のある人への支援をめぐっては、全国的に対応の難しさが指摘されてきた。現場では、支援者の知識不足が受け入れ制限や身体拘束につながる事例も生じており、専門技術を持つ人材の養成が課題となっている。こうした状況を受け、各都道府県が研修制度を整備してきたが、実施主体や指導内容は地域によりばらつきがある。
東京都は大学機関による参画を認める枠組みを整え、社会福祉現場と学術の協働強化を進めている。明星大学の指定はその一環であり、学術機関が現場研修に関与する先例として注目される。この動きの背景には、持続的な人材供給の仕組みを大学教育に取り込む狙いがある。
福祉現場との協働強化へ
明星大学はこれまで、福祉実践学科の教育を通じて地域連携型の人材育成に力を入れてきた。学内には実習指導室を中心とした現場協働の仕組みがあり、学生教育と社会人研修の両面で実践的な教育を展開している。今回の指定研修は、その活動基盤を活用して設計されたもので、同学科が長年築いてきた研修ネットワークを土台として運営する。
また、協力する法人の社会福祉施設では、重度障害者支援の現場で豊富な実践経験を有しており、実例に基づく演習指導を実施する。受講者は大学と現場の双方の視点を横断的に学ぶことで、多面的判断力を養える。これにより、現場対応力と理論理解の双方を高める教育構造が整う。
広がる制度整備と研修の今後
国は障害者総合支援法の改正等を経て、自治体単位での人材育成体系の確立を進めている。東京都の指定制度もその一環であり、大学など第三者機関の参画によって研修体制の多様化が進みつつある。明星大学の事例は、これを具体化した最初の大学主導研修となる。今後、他の地域でも同様の枠組みを導入する検討が進む可能性がある。
研修は単年度ではなく、継続実施を前提として設計されている。明星大学は、今後の運営で得られた成果を東京都および他自治体の研修制度検討にも還元する方針だという。指定研修事業者の裾野が広がる中、大学と福祉現場が連携した教育モデルの実効性が注目されている。
今回の開講により、学術機関が公的な人材育成システムに直接関与する動きが可視化された。障害福祉分野での継続的な支援人材育成の仕組みづくりが、今後の制度運用の焦点となりそうだ。