大企業人材の新規事業創出を促す制度の一環で、医療従事者の人材不足、とりわけ看護師離職の課題にSNSを活用した採用支援で取り組む点が評価された。
SNS活用で自走型採用を推進
メドエックスが運営する「メディッチ」は、医療機関のSNS発信やコミュニティづくりを軸とした採用支援サービスだ。従来の求人広告や人材紹介が抱える、高コスト構造や情報の蓄積性の欠如を補う仕組みを掲げる。
医療機関が自ら職場の雰囲気やスタッフの活動を継続的に発信し、応募を時間的に蓄積する「自走型採用」の実現を狙う。これにより潜在的な求職者への接点を持ち、採用コストを抑えながらマッチングの質を高める効果が期待される。
看護師不足の構造的課題が鮮明に
日本看護協会の調査によると、2023年度の病院看護師の離職率は11.3%に上る。看護師は「有効求人倍率2.47倍」と極めて売り手市場にあり、求人は一人当たり約2.5件という状況だ。2030年には高齢化率が31.8%に達すると見込まれ、医療・介護分野全体で人材確保の必要性が増している。
一方で、約70万人とされる「潜在看護師」が現場に復帰していない。働く環境や労働時間の制約が背景にあり、新たな働き方や定着支援の仕組みが求められていると関係者は指摘する。
南海電鉄の事業創出支援にも採択
メドエックスはこれまでも南海電気鉄道の事業創出支援プログラム「beyond the Border」に参加してきた。大企業との協働を通じて、公共性と収益性を両立する医療DXの実装を進めるスタンスを維持している。
今回のJISSUI採択により、看護師や医療職が長く働ける環境づくりを支える仕組みの強化が進むとみられる。医療機関のSNS活用ノウハウやコミュニティ形成支援など、同社が蓄積してきた専門知識を広く共有する動きも想定される。
広報と採用の境界が融合へ
医療現場では求人広告からSNS活用型採用への移行が加速している。企業調査によれば、2023年時点で一般企業の約6割がSNSを採用活動に使用している。InstagramやTikTokの利用比率が高まり、若年層への認知拡大に直結しているためだ。
医療分野においても、採用は単なる募集ではなく、働く姿勢や価値観を伝える広報活動と位置付けられつつある。動画やストーリー形式の投稿で職場の文化を伝える事例が増え、求職者との双方向コミュニケーションが形成されている。
現場で広がる評価と期待
メディッチの導入事例では、横浜市立みなと赤十字病院や鎌倉リハビリテーション聖テレジア病院などがコンテンツ制作やデータ分析支援を通じ、採用戦略の見直しに活用したとの声がある。利用した医療機関からは「SNS開設後の効果的な運用方法を学べた」「現場の魅力を映像で発信できた」といった評価が寄せられている。
看護師だけでなく、介護職やリハビリ職など他の医療職にも応用できる点も注目されており、医療業界全体の人材採用手法に広がる可能性がある。
採用DX推進へ課題と展望
看護師と医療機関が直接つながる採用ネットワークの拡大を進める考えだ。既存の紹介会社依存型モデルを補完し、採用・定着・教育を一体的に支援するプラットフォーム化を視野に入れる。
一方で、SNS活用における個人情報保護や運用負担の軽減など、制度面と倫理面での整備も課題として残る。自治体や医療団体との協力をどこまで拡大できるかが焦点となりそうだ。