株式会社丸井(東京都中野区)は2025年12月5日、新宿マルイ本館(同新宿区)4階の全フロアを使用し、人気漫画『ONE PIECE』の公式旗艦店「ONE PIECE BASE SHOP」を開業する。企画は株式会社バンダイナムコエクスペリエンス、運営は株式会社バンダイナムコアミューズメントが担う。店舗面積は約1,185平方メートルで、販売と体験を組み合わせた新形態の拠点として注目される。
丸井グループが都心店舗の再構築を進める中、共創型ショップとしてエンターテインメントを軸にした集客拡大を狙う。バンダイナムコエクスペリエンスと同アミューズメントはテーマ性の高い物販と体験型サービスを融合させることで、従来型商業施設との差別化を図る考えだ。丸井側にとっても、アニメ・ゲームに親しむ若年層との接点拡大につながるとみられる。
「深淵のブルー」基調に約500種類の商品展開
店内は作中の大海原を想起させるブルーを基調にデザインされ、ルフィらが冒険してきた島を模した複数のエリアで構成される。約500種類の新商品がそろい、いずれも原作者・尾田栄一郎氏の筆致を反映した限定設計となる。買い物客は、船型のショッピングバスケットを手に“冒険者”として店内をめぐり、自分だけの「お宝」を探す体験ができるのが特徴だ。各エリアにはキャラクターや名場面をモチーフとした雑貨・装飾品などが並び、国内外のファン層を想定した多様な商品群となる。
常設コンテンツで滞在を促す仕掛け
販売だけでなく、利用者の参加を促す体験施設も充実させる。400種以上のキャラクターから好きなデザインを選んで即時プリントできる「ONE PIECE ORIGINAL T-SHIRT PRINT」、パーツを組み合わせてキーホルダーやスマートフォンアクセサリーを製作できる「ONE PIECE DECORATION STAND」などを常設する。深海探索を模したクレーンゲームや巨大ガシャポンなどを設けた「ONE PIECE PLAY GROVE」も設置し、家族や観光客が滞在して楽しめる空間を狙った。こうした複合的な仕掛けにより、単なる物販型店舗に比べて回遊と滞留を促し、エリア全体の来店頻度の向上につなげる構想だ。
来店は抽選制で運営体制を強化
開業直後は混雑緩和のため、抽選による事前予約制を導入する。「ONE PIECE BASE」アプリでの利用登録が必要で、当選者のみが入店できる仕組みとなる。新宿マルイ本館の通常営業時間は11時~20時で、旗艦店もこれに準じる予定。年末年始(2025年12月31日~2026年1月3日)は休業する。姉妹会社のバンダイナムコアミューズメントが運営を担当し、安全・快適な店舗環境の維持を図る。
エンタメ融合で丸井グループが攻勢
丸井グループは小売とフィンテックを軸にする複合企業で、全国にマルイ・モディなどの商業施設を展開する。近年はアニメやゲームなど、ファン層の広いコンテンツとの協業案件を増やしており、エポスカードやtsumiki証券と組み合わせた顧客基盤拡大も進めている。主力の2026年3月期第2四半期連結決算(IFRS基準)は売上収益が前年同期比約10%増の1,364億円、純利益が22%増の148億円を確保しており、収益体質の改善が続く。グループは「共創」をキーワードに、出店企業やIPホルダーと連携した新業態づくりを推進。今回の旗艦店開設もその一環で、単なるテナント誘致を超えて協働型モデルを模索する動きだ。
一方のバンダイナムコグループは、玩具やアミューズメント領域を核に世界的なIP事業を広げており、『ガンダム』や『ドラゴンボール』に続く映像・ゲーム作品のリアル展開を強化している。
観光需要と回遊拠点の再構築が加速
新宿マルイ本館はJR新宿駅東口から徒歩5分に位置し、周辺には飲食・宿泊・ライブ会場などが集積する。2024年以降、インバウンド需要が回復基調にあり、百貨店や専門店ビルには海外観光客の来店が戻っている。また、エンタメ系テナントの常設化により、平日昼間の若年層来店を増やす効果も期待されている。近年、国内外で“推し活”関連消費が拡大する中、アニメIPを活用した実店舗型施設は都市商業の収益源として存在感を高めている。
アニメ聖地と再開発が交差、都市変革の契機に
旗艦店の定着には、商品の更新頻度やイベント回転率が鍵を握るとみられる。施設側では、シーズンごとに新陳代謝のあるコンテンツを投入し、ファンが繰り返し訪れる仕掛けを検討する。エリア周辺の再開発計画とも重なり、街全体の動線整備やデジタル連携も今後の課題だ。業界関係者は、今回の新宿店を「商業施設がIP体験型店舗を常設展開する先行事例」と位置づける。エンターテインメントと小売の境界を越える試みは、都市商業の形を変える契機になり得るとの見方もある。丸井とバンダイナムコ両社の協業がどのように拡大するかが、今後の焦点となりそうだ。