テリロジーホールディングスは、連結子会社でCX(顧客体験)やコンタクトセンター向け音声ソリューション事業を展開するログイットが、韓国発AIスタートアップのサイオニックエーアイとパートナーシップ契約を締結し、AIエージェント構築プラットフォーム「STORM Platform」の販売および導入支援を始めたと明らかにした。企業内データの利活用手段を広げ、業務効率化とデジタルトランスフォーメーション(DX)支援の選択肢を増やす狙いがある。
STORM Platformは、企業内に蓄積された画像や表、グラフなどの非構造化データを処理し、ノーコード環境でAIエージェントを構築できるのが特徴だ。中核技術として、サイオニックエーアイのデータ処理エンジン「STORM Parse」とRAG(Retrieval Augmented Generation)技術を備える。ログイットはこれを自社のCX・コンタクトセンター向け音声ソリューションと組み合わせ、問い合わせ対応や業務フローにAIエージェントを組み込む提案を強化する。
提供形態は3方式
提供形態はSaaSに加え、オンプレミス型とプライベートクラウド型にも対応する。ノーコードのワークフローデザイナーを備え、業務プロセスに応じたエージェント設計を直感的に行えるとする。STORM Parseにより複雑なデータ変換を自動化し、高性能のRAGエンジンで回答品質の向上やハルシネーション(AIによる事実誤認の生成)の抑制を図る構成だ。
ログイットは、コールセンター向けAI音声認識システム「Voiceroider」を手がけ、コンタクトセンター業務の自動化や応対品質向上を支援してきた。テリロジーホールディングスはネットワーク機器販売を主力とし、2025年3月期連結業績で売上高123億円、営業利益8億円を見込む。サイオニックエーアイとの提携では、両社の技術力を組み合わせ、製造・金融・メディアなど幅広い業界への展開を視野に入れる。
運用設計の論点浮上
STORM Platformは、非構造化データの自動構造化とRAGエンジンの組み合わせにより、企業内ドキュメントをAIエージェントで扱える形に変換し、問い合わせ応答や業務フローに接続する利用像を描く。サイオニックエーアイの技術要素とログイットの導入支援を組み合わせることで、業界別の業務データをAIに取り込む工程設計や、運用時に回答の根拠をどう提示・管理するかといった論点が前面に出る。
提供形態をSaaS、オンプレミス、プライベートクラウドの3方式としたことで、導入先のセキュリティ要件や既存システム構成の違いに応じた運用設計が求められる。案件ごとに最適な方式を選ぶだけでなく、導入支援の範囲設定や、方式ごとの導入手順・運用体制の役割分担を整理する必要がある。ログイットにとっては、CX・コンタクトセンター領域での提案にAIエージェント構築を組み込み、運用設計まで含めた包括的な支援メニューとして提示できるかが実務面の焦点となる。
AIエージェント連携拡大
今回の提携は、AI導入の主題が大規模言語モデルの選定そのものから、企業内データの取り込みと運用設計の巧拙へと移りつつある実情を映す。サイオニックエーアイは2024年に設立され、東京都港区に日本法人を構え、STORM Platformをグローバルに展開している。韓国本社の累計資金調達額は50億ウォン(約5億円)規模で、非構造化データ処理に関する特許3件を取得したとされる。ログイットは音声領域で培った実装経験を土台に、画像や表を含むデータを扱うエージェント構築基盤の販売・導入支援へと事業領域を広げる。
市場では、非構造化データ処理の難しさがDX推進のボトルネックとなりやすい構図が指摘されている。国内のAI関連市場規模は2025年に1.8兆円、2028年に4.5兆円に達すると見込まれ、年平均成長率は35%と高い伸びが予想される。導入目的の内訳では、人手不足解消を主目的とする企業が約3割を占める一方、画像・音声・文書といった非構造化データの処理需要がDX課題の4割前後を占めるとの推計もある。
CX・コンタクトセンター周辺市場も拡大基調にある。同分野の国内市場は2025年時点で2兆円超の規模とされ、音声認識やチャットボットを含むAIエージェント導入により、平均で2〜3割程度の業務効率化が見込まれるとの見立ても出ている。ログイットが既存の音声ソリューションと組み合わせてSTORM Platformを提案する構図は、こうした省力化ニーズとデータ利活用要求を取り込むものだ。
類似の提携や競合の動きも活発だ。NTTコミュニケーションズは韓国AI企業UpstageとRAGベースの音声エージェントで協業し、非構造化データ活用を通じて問い合わせ回答の精度を約25%高めたと説明した。国内では、ベンダーのNXSYSが独自RAGエンジン搭載のAIエージェント「AgentX」をSaaSとオンプレミスで提供し、製造業3社でハルシネーション発生率を5%以下に抑えた事例を公表している。RAGを「搭載する」段階から、画像・表・グラフを含む社内ドキュメントをどの工程で構造化し、問い合わせ応答や業務プロセスにどう組み込むかという実務設計が、競争軸として浮上している。
この文脈で、サイオニックエーアイが掲げるSTORM Parseの処理能力や、ログイットの導入支援の役割は、提案段階の差別化要因となる。サイオニックエーアイは、STORM Parseの画像・表データ構造化精度を98%と説明し、韓国企業Kakao EnterpriseのRAGツール(95%)との比較を通じて優位性を訴える。また、ログイットを日本企業として初のグローバルパートナーに指定したとしており、日本市場開拓の拠点と位置づける。
ログイット側もコンタクトセンター業務の自動化を継続的に訴求してきた。2024年にはAI音声対話システムを金融機関5社に導入し、年間1,000時間超の作業削減を実現したとする。2025年にはNTTデータと音声AIの共同開発を実施するなど、外部企業との連携を重ねてきた経緯があり、その延長線上でSTORM Platformを中核とするAIエージェント領域に踏み出す。
ノーコードAIツール市場も拡大している。2024年時点のグローバル市場規模は950億ドル、日本国内は1,200億円規模と推計される。金融・製造分野では、セキュリティ規制対応などを背景にオンプレミスやプライベートクラウドでの利用ニーズが約半数を占め、SaaSと比べて2倍程度の成長ペースが見込まれるとの見方もある。製造・金融を主要ターゲットに掲げるログイットの説明は、こうした導入形態の選好とも整合的だ。
テリロジーホールディングスの事業ポートフォリオでは、DX関連事業が2025年3月期に全体売上の15%を占める見通しで、中期計画では2028年までに30%へ引き上げる目標を掲げる。ログイット経由のAIソリューション販売では既に複数件の導入実績を積み上げており、STORM Platformの販売・導入支援は、グループ全体でDX領域の案件比率を高める一手となる。
