京浜急行電鉄株式会社(横浜市西区)は株式会社Nature Innovation Group(東京都新宿区)と協働し、傘シェアリングサービス「アイカサ」の利用可能駅をこれまでの約2倍となる66駅に拡大した。今回の拡張により、京急線のほとんどの駅で利用が可能となる。
両社はオープンイノベーションプログラム「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」から生まれた取り組みとして、沿線の利便性と回遊性の強化を狙う。京急電鉄にとっては、鉄道やマンション事業を軸に持続可能な都市交通・生活基盤を広げる施策の一環として位置づけられている。
京急線66駅に拡大し利便性向上へ
新たに35駅にレンタルスポットを設置し、利用可能な駅は計66駅となった。
六浦駅では2026年3月ごろに導入を予定しており、これにより全線での展開が現実的になる。
利用者は乗車駅で借りた傘を降車駅で返却でき、雨天時の移動がより快適になる。濡れた傘を車内に持ち込む必要がなくなることから、鉄道駅や車内での忘れ物削減にも寄与する仕組みだ。
このサービスを提供する株式会社Nature Innovation Groupは2018年創立のスタートアップ企業で、京急電鉄の第二期アクセラレータープログラムの採択企業。
「アイカサ」は都市部を中心に展開しており、京急線との連携により広域的な相互利用が進む。
2025年7月に第2弾設置を行い、今回の12月導入で大半の駅がカバーされた。
沿線マンションにも導入拡大
鉄道駅だけでなく、京急電鉄が展開するマンション「PRIME」シリーズでも専用レンタルスポットの設置を進める。
2026年3月以降に入居が始まる3棟(プライム東神奈川、プライム品川南大井、プライム横浜)で入居者に一定期間無料での利用を提供する予定だ。
現時点で8棟に導入済みの同シリーズでは日本最多の設置実績を有し、今後は駅と住まいの両方からシームレスに「雨に濡れない移動」を支える。特に東神奈川や品川南大井では、最寄り駅改札にも新規スポットを併設する計画で、居住者の利便性を高める。
横浜駅周辺にはすでにアイカサの設置箇所が12か所あり、鉄道や他社駅を含めた広域のアクセス環境が整いつつある。
京急の共創施策に連なる拡張
今回の展開は、京急電鉄が推進する「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」の成果であり、オープンイノベーションを通じて交通・生活領域の課題解決を図る位置づけにある。このプログラムは2017年の開始以来22社の採択を経て、17件の実証実験、3件の事業化、2件の資本提携を実施してきた。
2024年2月のリニューアル以降は「移動」と「まち創造」を軸に常時募集型プラットフォームとして拡張され、8件の事業共創が進行中だ。
また、本プロジェクトは東京都の支援プログラム「TIB CATAPULT」におけるクラスター「TRIP(Tokyo Railway Innovation Partnership)」にも連動している。TRIPには小田急電鉄、京王電鉄、JR東日本スタートアップなど都内主要鉄道事業者14社とTIS株式会社が参画し、交通インフラを核とした共創型イノベーションの促進を図っている。
京急電鉄とアイカサの協業は、この広域枠組みの中で進められる都市交通のサステナブル化事例にあたる。
都市交通と生活基盤の連携が焦点
鉄道路線網と住宅開発という京急電鉄の両事業が連動する今回の取り組みは、利用者の日常生活の動線を一体的に設計する試みでもある。
背景には、都市部での移動需要の多様化と、シェアリングエコノミーを活用した柔軟なサービス運用への期待がある。
業界関係者によると、鉄道事業者が自社沿線の住宅や商業施設と連携して損耗型の物品シェアを展開する動きはまだ少なく、廃棄削減など環境負荷の低減にもつながるという指摘がある。
交通と住居双方から利便性と環境配慮を実現する点で、同社の施策は今後の都市整備の参考事例となる可能性がある。
京急電鉄の川俣幸宏社長は、スタートアップ企業との協業を通じて地域住民の利便性向上と持続可能な交通モデルの確立を進めていく意向を示した。
アイカサ運営のNature Innovation Group社長、丸川照司氏も「公共インフラとの共創で都市生活の質を高めたい」と述べており、両者の目指す方向は一致している。
2026年以降も沿線拡張を継続
六浦駅での設置を皮切りに、京急線全駅への展開完了を目指す。
マンションとの連携モデルは2027年まで段階的に進行し、新築物件の入居開始時点でアイカサ利用を標準化する方針だ。
鉄道と生活インフラを組み合わせた共創型サービス拡大は、京急グループの持続可能な都市運営戦略の一環と位置づけられる。今回の動きは、既存の交通資産を核に多様な事業者との協働を進める流れの中にある。