株式会社ジェイテクトサーモシステム(奈良県天理市)は2025年12月11日、AIや5G通信に用いられる先端半導体の製造工程に対応した熱処理装置「SO260F」を発売したことが明らかになった。親会社の株式会社ジェイテクト(愛知県刈谷市)のグループ戦略の一環として、先端半導体パッケージ市場の需要拡大に応える狙いがある。
半導体業界ではAIや5G向けデバイスの高性能化により、再配線層(RDL)インターポーザーやガラスインターポーザーの製造需要が急伸している。ジェイテクトサーモシステムは、液晶ディスプレイ用熱処理装置で培った技術を活用し、より高精度な温度制御と安定した搬送を実現する装置を求める顧客ニーズに応えたものである。グループ全体としては、2030年に「モノづくりとモノづくり設備でモビリティ社会の未来を創るソリューションプロバイダー」への転換を目指す中で、半導体分野を重点領域の一つに位置づけている。
大型基板に対応する新モデルを投入
新製品「SO260F」は、従来機の高い気密構造を継承しつつ、低酸素環境下でも均一な温度分布を維持できる性能を持つ。これにより、高精度な熱処理が求められる先端パッケージ基板の加工品質を安定化させる効果が期待される。対応基板サイズは510×515ミリ、600×600ミリの大型仕様で、AIサーバー向け半導体など、より大面積のインターポーザー製造に適用可能だ。さらに、同社は直径300ミリや310ミリ角の基板対応機種も併せて販売を推進する方針で、装置ラインナップの拡充によって幅広い用途に応えようとしている。
半導体熱処理技術で築いた実績
ジェイテクトサーモシステムは1958年にベアリング用熱処理装置のメーカーとして設立され、1968年から半導体用設備にも本格参入した。以後、量産装置を国内外の半導体メーカーに多数納入しており、液晶ディスプレイ(LCD)向け大型基板の熱処理技術で培ったノウハウを保有する。同社の技術は、モノづくり工程で重要な「温度・雰囲気・搬送制御」を組み合わせた独自のコンピタンスとして位置づけられ、今回の装置開発にも反映された。
近年はAI、通信インフラ、車載分野などの高性能化が急速に進み、熱処理工程の高密度化と品質保証がメーカー間の競争力を左右する要素となっている。こうした流れに対応するため、同社は低酸素雰囲気でも高精度なプロセスを実現する設計技術を磨いてきた。
グループ経営の転換と事業戦略
親会社のジェイテクトは、2024年6月に社長へ就任した近藤禎人氏のもとで経営モデルを「受動型」から「能動型」に転換する改革を進めている。グループ各社の技術資産を連携させ、顧客産業ごとに最適化したソリューションを提供する構想だ。ジェイテクトグループでは、工作機械、軸受、自動車部品にとどまらず、半導体製造分野への進出を次の成長軸に据える。実際、12月17日から19日にかけて東京ビッグサイトで開催される「SEMICON Japan 2025」においても、グループ各社が半導体工程向け機器や材料を共同展示し、拡大する市場に向けた総合提案を図る予定だ。
AI・5G市場拡大と需給変化
AIサーバーの高性能化や5G通信網の拡充によって、半導体パッケージの微細化と多層配線構造が進行している。こうした技術潮流の中で、再配線層を形成するインターポーザー基板の高品質化が不可欠となり、製造装置の熱処理性能向上への要求が高まっている。業界関係者によると、低酸素雰囲気下でのプロセス制御や基板変形防止技術は今後の技術競争の焦点になるという。ジェイテクトサーモシステムは、これまでLCD用装置で培った高精度搬送構造を応用し、歩留まり改善と均一加熱の両立を目指してきた。装置の構造的工夫により、製造工程の安定運用が求められる先端デバイスメーカーからの採用が広がる見込みだ。
今後の展開と課題
ジェイテクトサーモシステムは今後、「SO260F」を国内外の半導体メーカー向けに提案・納入するとともに、グループ内の他事業会社と連携し、モビリティ社会の進化を支えるインフラ整備にも寄与する計画だ。加えて、各社の技術をつなぐ「モノづくり設備連携」により、熱処理以外の工程でも包括的な製造支援体制を築く方針である。
一方で、AI分野特有のチップ多層化や3Dパッケージ化の進展に伴い、さらなる温度制御精度の向上や処理スループットの効率化が求められる。大型化する装置群に対応する工場スペースやエネルギー管理も伸長余地を残す。今後、これら課題にどう取り組むかが、グループの事業拡張戦略の鍵を握りそうだ。