株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー(東京都中央区)は、香川県善通寺市の独立行政法人国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センターと提携し、同センター内に「赤ちゃんの頭のかたち外来」が開設されたと発表した。同外来では、同社製の頭蓋矯正治療用ヘルメットを用いた治療が可能となり、小児脳神経外科の医師が初診から治療完了まで一貫して対応する体制が整う。
提携の目的は、頭蓋変形治療に対する地域間の医療格差を是正し、安心して子育てができる環境を整備することにある。ジャパン・メディカル・カンパニーが提供するヘルメット治療は、小児専門医療機関との連携を基盤に、病的な頭蓋変形と位置的変形の双方に対応する医療モデルの全国展開を目指す施策の一環と位置づけられる。
香川で乳児頭蓋治療外来を新設
四国こどもとおとなの医療センターは、三次救急指定病院として小児脳神経外科などの専門診療科を有し、689床を擁する大規模総合病院だ。今回の「赤ちゃんの頭のかたち外来」開設により、頭蓋縫合早期癒合症などの外科的対応が求められる病的頭蓋変形と、向き癖などによる位置的変形の双方を一拠点で診断し、治療方針を決定できる体制が整備された。小児脳神経外科の専門医が初診から治療終了(卒業)まで診療にあたる仕組みで、地域の小児医療での新しいモデルといえる。
同センターは一般社団法人日本ヘルメット治療評価認定機構の「認定治療医療機関」に登録されており、放射線画像による病的要因の除外を行ったうえでヘルメット治療を導入することが義務づけられている。
こうした認定制度のもとでの体制整備は、国内で適正な頭蓋健診とヘルメット治療の標準モデル構築を意識したものだ。
3Dプリントを活用したヘルメットで治療精度を向上
治療に用いられるのは、同社が製造する頭蓋矯正用ヘルメット「Qurum Fit(クルムフィット)」である。3Dスキャンと3Dプリンティングによるオーダーメイド設計が特徴で、通気性と軽量性、清拭性を備えた構造となっている。成長に合わせてインナークッションを段階的に調整し、1人あたり40〜50枚を交換しながら最適なフィット感を維持する仕組みだ。
医師の指示のもと、診察ごとに当社の専門スタッフが調整を行う体制を院内で構築し、治療効果の安定と快適性の両立を図っている。
同製品は日本国内のこども病院や大学病院を中心に導入が広がっており、シンガポールの公立医療機関でも採用例がある。国内では慶應義塾大学病院や大阪母子医療センターなど、全国の主要な小児施設で導入実績があり、累計症例数は1万9000件を超える。
医師には必ず認定機構の研修受講と他施設での実地見学を義務づけるなど、治療品質を支える教育体制も整備している。
背景に広がる頭蓋変形治療の地域格差
ジャパン・メディカル・カンパニーは2012年に国産初の頭蓋矯正ヘルメットを共同開発し、2018年に独立した医療機器ベンチャーだ。母体となった大野興業で培われた3D造形技術を応用し、脳神経外科や耳鼻咽喉科領域で手術模型などを製造してきた経緯がある。同社はヘルメット治療の医療的正当性を確立することを重視し、「美容的矯正」ではなく「医療としての適正治療」との認識を広げる活動を進めてきた。
一方で、国内では頭蓋縫合早期癒合症など専門診療が可能な施設が都市部に集中している。自由診療として扱われるケースも多く、医療機関の診断基準や治療方針にばらつきが生じていた。今回の提携は、こうした地域的・運用的格差の是正を狙い、地方における専門的診療体制を整備する実証的取り組みと位置づけられる。全国的小児医療ネットワークにおける均てん化の流れの一環だ。
専門医主導の連携体制が治療の質を支える
今回の診療を担当するのは、同センター小児脳神経外科の谷口秀和医長。脳神経外科専門医・指導医など複数の資格を持つ専門医で、乳児期にみられる頭位性頭蓋変形の改善指導や手術を要する病的頭蓋変形の診断に長年携わってきた。谷口医師は、頭の形の歪みは体位や向き癖に起因する場合が多いが、疾患が原因となる場合は脳の発達に影響を及ぼすおそれがあると説明し、専門医による適切な診断の重要性を強調している。
同社は四国センターをはじめ、全国のこども病院や大学病院と連携し、赤ちゃんと家族が安心して治療を受けられる医療環境の充実を掲げている。
この連携モデルが定着すれば、ヘルメット治療の標準化と教育体制づくりという二重の目的が進むことになる。業界関係者の間では、国内小児外科領域における「地域医療連携」の新しい形として注目を集めている。
地域連携を軸に持続的な医療モデルへ
同社は今後も全国の医療機関との連携を拡充し、乳幼児の頭蓋健診とヘルメット治療の普及体制を整える方針を示している。
大阪母子医療センター、奈良県立医科大学附属病院、長崎大学病院などでも同様の外来が新設されており、大学病院との共同研究も進行中だ。こうした流れは、診療と研究を一体化した長期的な基盤づくりの試みと位置づけられる。地方拠点の拡充を通じて、全国的な診療標準の浸透が焦点となりそうだ。