株式会社富士薬品(埼玉県さいたま市)はさいたま市と包括連携協定を締結した。配置薬やドラッグストア事業を通じ、市民の健康増進、災害対策、高齢者支援など11分野で協働し、市民サービス向上と地域活性化を目指す。同市役所で協定締結式を行った。
富士薬品がさいたま市と協定を結ぶのは、2024年の災害時医薬品供給協定などに続く取り組みの一環だ。
日常生活に密着した医薬品販売網を活用し、セルフメディケーション推進や防災・福祉支援を体系的に支えることが狙い。自治体の健康・安心施策と民間の販売・訪問網を結び、行政サービスの補完役となる枠組みづくりを進める。
11分野で連携、市民サービス向上へ
協定の対象は健康増進、地域防災、スポーツや文化振興、高齢者や障害者支援、環境保全など11項目に及ぶ。富士薬品はドラッグストアや配置薬販売を通じ、健康情報発信や見守り活動も担う予定だ。
さいたま市によると、これまで個別に進めてきた感染症啓発や災害時の医薬品供給協力などを包括的な連携枠に統合し、部局横断的な施策展開を可能にしたという。
富士薬品の配置事業は同市内で約2万軒の家庭・事業所を対象にしており、現場との接点を強みに地域課題に応じた取り組みを進める。
協定では、事業活動を通じた産業振興や地産地消推進、市内イベントへの協賛なども盛り込まれている。
36自治体と協定、民間からの地域連携進む
富士薬品は全国で36市町の自治体と協定を結んでおり、地域住民の健康支援や災害対応を共同で進めている。
今回のさいたま市との包括協定は、その中でも対象分野が最も広範な部類に位置づけられる。富士薬品は配置薬販売事業を起点に、各地の行政と防災・福祉・健康の3領域を中心に協働体制を広げてきた。
1930年に富山県で配置薬業として創業した同社は、現在全国で1,273店のドラッグストア「セイムス」を展開し、地域密着型の医薬・衛生サービスを提供している。
調剤薬局や製薬事業も手掛ける複合型企業として、販売・研究・供給まで一貫した体制を持つ点が自治体の連携対象として生かされている。
背景に行政・民間の防災連携需要
さいたま市では2024年以降、気候変動適応法に基づくクーリングシェルター指定や感染症予防啓発、災害時支援などの分野で富士薬品と個別協定を重ねてきた。
富士薬品が持つ訪問販売ネットワークを防災・高齢者見守りなど行政サービス補完に生かす動きは、全国の自治体で広がりつつある。背景には、平時から地域事業者と連携し災害時に即応できる仕組みを構築する狙いがある。
市側も、健康寿命の延伸や文化・スポーツ振興を柱とする都市政策を掲げており、官民協働モデルの拡充を政策目標に据える。
富士薬品のように物流・訪問体制を持つ企業との協働は、高齢化社会における生活支援や健康啓発の担い手不足を補う意義があるとみられる。
企業の地域展開と行政協働の接点
協定に基づく個別事業は段階的に実施される。
感染症予防ポスター掲示、災害用品の供給協力、スポーツイベントの健康測定ブース出展などが既に予定されている。富士薬品は自社のドラッグストア網や訪問営業体制を活用し、行政の要請に応じて柔軟に協働領域を拡大する方針だ。
市担当部は、企業の地域ネットワークと行政施策を結ぶ取り組みが他分野にも波及する可能性を指摘する。
医療・介護インフラの不足を補う「民間ルートの地域連携」の在り方が、今後の官民協働政策の注目点になりそうだ。
2026年開催予定の「ねんりんピック彩の国さいたま大会」では、富士薬品が健康講座や測定会を実施する計画がある。
市役所では協定の11項目ごとに担当部局を整理し、連携プロジェクトを順次進める方針だ。官民協働による住民主体の健康づくりと災害対応体制整備をどう定着させるかが、今後の焦点となる。