野球用品メーカーのフィールドフォース(千葉県柏市)は12月3日、金属加工の田中工業(千葉県白井市)と共同開発した新型練習補助具「バントガード」を発売した。バント練習中に多発する手指のけがを防ぐ器具で、同社のウェブサイトなどで販売を始めた。
両社は以前から同様の練習用防具を試作しており、技術的課題を抱えていた。フィールドフォースはガード部の強度確保の壁に直面していた。一方、田中工業は高強度の製品を作れるが重量面で基準を満たせず、開発を中断していた。今回、ガード部を田中工業がスチールで設計し、取り付け部分をフィールドフォースが樹脂とラバーで軽量化した。双方の強みを組み合わせたことで、実用化に至った。
「安全に練習できる環境を作ることが、野球人口の底上げにつながる」と両社関係者は説明しており、コラボレーションによる製品化の意義を強調した。
軽量スチール採用で全国から反響
バントガードは縦約10センチ、横約15センチ、高さ約5センチで、重量は約355グラム。スチール製のガード部がインパクトの衝撃を受け止め、指をボールとバットの間に挟む事故を防ぐ構造だ。生産は国内で行い、生産管理・品質検査も両社が直接確認。
協力先の田中工業は、1946年創業の金属加工業者で、主力はグレーチング(側溝用金属蓋)やタンク、架台などの製造にある。溶接やめっき加工の精度に定評があり、近年では防球ネットや野球練習施設用の金具などスポーツ分野にも事業を広げている。
野球用品ブランド「TUF CAGE(タフ・ケージ)」の名で展開する同社の製品は、耐久性と錆びにくさで高校野球強豪校の指導者から支持を得ている。取引先からの修理依頼をきっかけに自社製造に乗り出し、口コミで注文が増えた経緯がある。近年は野球関連の受注だけで社内の作業が埋まることも多く、品質を守るため複数の検査工程を設けている。
専務の田中美千男氏は「価格競争が激しい時期もあったが、品質にこだわってきた結果、国内工場の信頼が戻ってきた」と語る。今回のバントガードも、同社が築いてきた“精度重視”の姿勢が反映された製品だ。
「ものづくり大国再生」理念で町工場と連携
フィールドフォースの吉村尚記社長は自社の開発理念を「ものづくり大国日本再生計画」と掲げており、今回のバントガードはその第1弾に当たる。国内の中小製造業と技術を掛け合わせ、練習環境の安全・効率を高める製品づくりを推進する構想だ。
吉村氏は「田中工業となら課題を補い合えると確信した。互いの強みを結集することで、長年形にできなかった製品が完成した」と話している。一方の田中工業側も「小中学生が怖がらずに練習できる意義は大きい。自分の武器を身につける環境を支えたい」と今後の協力に意欲を示した。
協働拡大へ意欲 国内技術再評価の動き
両社は今後、バントガードに続く協働開発にも意欲を見せている。強度と精密さを求められる練習機材や安全関連用品で、町工場の金属加工技術を生かす計画を検討中という。
業界関係者の間では、今回の取り組みが地方製造業とスポーツ市場をつなぐモデルケースになるとの声もある。海外製品の流入が進むなか、安全性や耐久性を重視した国内製品の需要は再び高まりつつあり、少年野球や学校現場での安全対策は継続して求められており、今後どこまで普及するかが焦点になりそうだ。