株式会社大日本印刷(東京都新宿区)は2025年12月10日、同年12月17日から19日まで東京ビッグサイトで開催される半導体関連の国際展示会「SEMICON Japan 2025」に出展することを明らかにした。半導体の設計支援からパッケージングまで、製造工程の前後を広範に支援する製品や技術を紹介するという。
半導体産業の高度化と供給網の強化を見据え、同社は印刷分野で培った微細加工や精密塗工の技術を応用し、製造装置・材料・解析分野に関連する展示を行う。特に次世代のEUV(極端紫外線)露光技術や、高集積化を支えるガラス基板技術が中心テーマになるとみられる。
DNP、EUVリソグラフィ対応フォトマスクを展示
今回のブースでは、EUV(Extreme Ultra Violet)リソグラフィ用のフォトマスクを実物展示し、透過性能を高めるカーボンナノチューブ(CNT)素材の保護膜「ペリクル」を装着した最新モデルを披露する。EUV対応のフォトマスクは現在、世界的に供給能力が限られており、高精度な加工技術を活かした同社の開発動向には業界から注目が集まりそうだ。
また、半導体製造データを高速に解析するビューワーソフト「HOTSCOPE」や、部材・素材の分析評価サービスも紹介し、設計・製造・検証全体を一括支援する体制を示す。
AI時代を見据えた省電力基板技術を提案
後工程分野では、AI応用によるデータ処理量の増大に対応する省エネルギー型パッケージ基板を展示する。これには、光信号と電気信号を同一基板上でやり取りする「光電コパッケージ」や、高密度配線を可能にする「TGV(Through Glass Via)ガラスコア基板」などが含まれる。
従来の樹脂基板に比べ高熱伝導性や寸法安定性に優れたガラスコア基板は、高効率化と大面積化の両立を狙う。半導体メーカー各社が次世代チップレット構造を採用する中で、配線技術や冷却性能の改良が共通課題となっており、DNPはその解決策の一端を提示する。
DNPグループの株式会社DNPエル・エス・アイ・デザインは、LSI設計の委託開発サービスやASIC設計案件の展示を担当する。これにより、前工程の設計段階から量産までをカバーする同社グループの総合力を訴求する。
一方、株式会社DNP科学分析センターは、半導体チップや素材の構造解析サービスを出展し、3次元解析やナノスケールでの評価技術を紹介する。ナノインプリントリソグラフィ(NIL)用テンプレートも展示され、3Dセンサー、ARグラスの光学素子製造など応用分野の多様さを示す構成になる。
印刷技術の応用で半導体製造支援を多角化
大日本印刷は1894年創業の総合印刷会社で、パッケージ・エレクトロニクス・情報セキュリティなど幅広い事業を展開している。電子部材分野では微細加工技術の発展を背景に、ディスプレー用フィルムや回路基板などの提供を進めてきた。
近年はフォトマスクやガラス基板など、半導体製造関連の高付加価値領域への展開を強めており、印刷技術をナノレベルまで応用する「エレクトロニクス事業」として位置づけている。イベント出展を通じて、国内外の半導体メーカーとの連携を拡大する方針だ。
成長加速する国内半導体投資との相乗効果
国内では経済産業省の産業技術総合研究所が北海道千歳市に新たな半導体研究開発拠点を整備する方針を打ち出すなど、最先端製造の基盤整備が進む。ラピダスやTSMCなどの大型投資により、EUVリソグラフィ技術や封止材料など関連分野の需要が増している。
DNPが出展するフォトマスクやガラス基板関連技術は、こうした政策的な開発環境とも高い連動性を持つ。同社が提供する分析・設計支援サービスが、国内の研究開発段階を補完する可能性もあり、企業・国が協働するエコシステム形成の一環とみる業界関係者も多い。
半導体展示会の広がる意義
SEMICON Japanは半導体製造装置、材料、実装技術などを網羅する国内最大級の展示会で、2025年は「Advanced Packaging and Chiplet Summit(APCS)」を併催する。AI、IoT、自動車分野の次世代応用を見据えた企業が一堂に会し、供給網の競争力強化を図る場となる。
展示会の後援には電子情報技術産業協会(JEITA)などが加わり、日本の製造力回復に向けた連携が進んでいる。業界関係者は「印刷技術を軸に半導体分野へ展開したDNPの動きは、異業種参入による裾野拡大の象徴」とみており、2025年の展示を通じてどの程度の連携提案が実際の取引につながるかが焦点となりそうだ。
環境・省エネルギー対応も示す
展示される光電コパッケージ基板は、データセンターの消費電力を抑える要素技術として注目される。光を用いた伝送により電力損失を減らし、大容量通信を効率化する点が各国で評価されている。
AIサーバー増設に伴う世界的な電力負荷の増大が問題視されるなか、DNPは配線経路と放熱構造の最適化を図り、素材開発面から環境対応を進める方針を示している。今後はカーボンニュートラル対応素材との組み合わせ開発も課題になるとみられる。
DNPが示す展示構成は、印刷由来の成膜技術、データ解析、基板開発という複数領域を一体化した点に特徴がある。国内半導体製造の再興を支える中間素材企業として、材料・装置・設計の各分野を結ぶ協業余地を広げる狙いだ。
会期中には国内外の大学や研究機関の来場も見込まれており、共同開発や評価試験への橋渡しが期待される。業界では、次世代チップ製造で求められる高精度パターン転写と薄膜化の技術支援が今後の成長鍵になるとみられる。
課題は量産対応と国際標準
一方、EUV対応のフォトマスク製造は高コストかつ生産性確保が難しいとの指摘もある。DNPが量産品質を維持しつつ主要顧客の需要に応えるためには、国際標準との整合を取った検査・品質評価の枠組みを整えることが不可欠だ。
同社は既に欧州企業との共同検討にも着手しており、評価・試作・分析の全段階を自社グループで内製化できる体制の強化を進めている。国際展示会を契機に、こうした研究開発成果の信頼性や供給体制を広く発信する意義は大きいといえる。
DNPは「SEMICON Japan 2025」での展示後も、顧客企業や研究機関とのパートナーシップを拡充し、短期的な受注獲得よりも長期的な技術協調を重視する構えだ。2026年以降には新たな量産評価ラインや追加素材開発プロジェクトの展開を視野に入れる。
国内投資と技術自立が進む中で、印刷会社から半導体材料企業へと変貌しつつあるDNPの動きは、製造業全体の構造転換を象徴している。世界的な供給網再編が続くなか、将来的に同社技術がどの国際アライアンスに組み込まれるのかが注目されるだろう。