株式会社クロス・マーケティンググループ(東京都新宿区)は2025年12月11日、傘下のKadence International(タイ・バンコク)と人材紹介大手PERSONNEL CONSULTANT MANPOWER(タイ・バンコク)を通じて実施した「在タイ日系企業調査(2025年)」の結果を公表した。タイに拠点を置く日系企業926社を対象に実施したもので、日本人駐在員からローカルマネジメントへの移行が進みつつあることが分かった。
発表によれば、多くの企業が現地マネジメント層の増強を掲げ、日本人駐在員の削減を進める傾向が鮮明になった。現地化の流れは2021年以降連続して続いており、タイでの人材確保や採用戦略の見直しが重要な課題となっている。
ローカル人材登用が進展、駐在員削減も拡大
調査結果では、製造業の64%、非製造業の60%が「ローカルマネジメント層を増やす」と回答し、いずれも前年から顕著な上昇を示した。企業経営のローカル化が定着段階に入りつつあることを裏づける結果だ。一方で、日本人駐在員を減らす意向も強まっており、製造業では35%(前年比9ポイント上昇)、非製造業では21%(同7ポイント上昇)となった。現地法人の自立的な運営体制を整える動きが広がる中で、コスト構造の変化も見込まれている。
現地採用の日本人に需要、採用難で実績伸び悩む
日本人の現地採用は需要が高まる一方、実際の雇用数は横ばいで推移している。製造業では43%、非製造業では41%の企業が日本人現地採用社員を抱えており、前年よりわずかに減少した。特に非製造業では「1人」雇用の割合が50%に達し、「5人以上」は14%にとどまった。駐在員削減による補完需要が生じているものの、適任者確保の難しさから実際の採用に結び付くには至っていない。採用プールの限界と処遇面での不均衡が課題として浮上している。
回答企業926社、現地化意識は業種を超えて浸透
今回の調査は2025年9月26日から10月14日にかけて実施され、回答企業は製造業412社、非製造業514社の合計926社に上った。前年(923社)とほぼ同規模であり、長期的なパネル調査としての推移比較が可能となっている。集計では、業種・規模を問わずローカルスタッフの昇進促進や権限移譲への関心が強まっている。タイ国内における給与水準や昇給率の上昇、若手人材の流動性拡大が背景にあるとみられる。
クロス・マーケティンググループは2013年設立の調査・デジタルマーケティング企業で、東南アジアを中心に海外調査網を拡大してきた。傘下のKadence International(Thailand)は2015年設立の市場調査会社で、現地企業・日系法人双方に調査支援を行っている。協力企業であるPERSONNEL CONSULTANT MANPOWER(Thailand)は1994年創立の人材紹介企業で、日系現地法人向けの採用支援やセミナー開催を手掛ける。2020年代以降、コロナ禍で駐在員派遣が制限されたことを契機に、現地スタッフによる業務移管が進展した。以後も労働市場の国際競争、人件費の上昇、ASEAN域内の拠点再編を背景に、ローカルマネジメントへの依存度が増している。
人事制度と現地人材の両立へ、採用環境の整備急務
調査では賞与制度、昇給率、福利厚生など人事関連36項目を分析対象とし、Z世代人材への対応や離職防止策も取り上げた。人事管理の焦点が「処遇改善」から「離職抑制・登用育成」へ移っていることが示唆される。今後は現地人材のマネジメント力強化と、日本人現地採用枠の適正化を両立させる体制づくりが求められる。業界関係者からは、「ローカル化の進行は避けられないが、企業文化の共有をどう維持するかが次の焦点」との声が上がっている。
クロス・マーケティンググループと提携各社は、2025年12月17日にタイで「変わりゆく市場環境と人材戦略」を主題とするオンラインセミナーを開催する予定だ。調査データの詳細報告とともに、ASEAN域内での人材マネジメントや福利厚生制度に関する意見交換を行う。現地調査の継続と可視化されたデータ活用により、タイ進出企業の人事戦略に実務的知見を提供する構えだ。企業の経営現地化がどの水準まで定着し、採用の均衡をどう図るかが、今後の重要課題になるとみられる。