株式会社ブリヂストンは10月23日、2026年1月1日付で代表執行役Global CEOが交代すると発表した。現職の石橋秀一氏が退任し、森田泰博氏(52歳)が新たに就任する。同社が迎える2031年の創立100周年を見据え、経営トップを若返らせて成長の加速を図る。石橋氏は2025年12月末で代表執行役を退き、翌年3月の定時株主総会終結時に取締役を退任する予定だ。
今回の交代は、中期事業計画(2024〜2026年度)で掲げた「経営・業務品質の向上」を実現するための人事刷新の一環である。事業再編の進展を受け、プレミアムタイヤ事業やソリューション事業の両輪体制を強化し、質を伴う成長段階へ移行する局面にある。経営陣の世代交代を通じて、同社が掲げる「サステナブルなソリューションカンパニー」への転換を加速する狙いだ。
海外事業を担った森田氏が新CEOに就任
森田氏は1996年に入社し、東南アジアと中国での海外子会社経営に携わってきた。タイのThai Bridgestoneや中国のBridgestone(China)Investmentで経営トップを務めた後、2023年からはアジア地域統括会社Bridgestone Asia PacificのCEOに就任。2024年に常務役員、2025年には副社長を経てグローバル経営に携わり、2026年に代表執行役Global CEOに昇格する。 海外で培ったマネジメント経験を武器に、経営資源のグローバル最適化を進める方針だ。森田氏は2025年からGlobal CAO(最高管理責任者)とGlobal CSO(最高戦略責任者)を兼ね、品質・財務・人事・サステナビリティ・デジタル施策など横断的分野の責任を負う。経営全体の統合力を強化しながら、多拠点経営の効率化を進める体制を整える。
事業再編を経て質を伴う成長へ
ブリヂストンは近年、グローバルでの事業再編と構造改革に着手してきた。第1・第2ステージと位置づけた再構築が完了し、プレミアムタイヤ事業の競争力向上や、ソリューション事業の拡充によって収益基盤を整備した。プレミアム領域では商品設計基盤技術「ENLITEN」と、モノづくり基盤技術「BCMA」を連携させ、構造や材料開発を通じて環境性能と生産効率の両立を追求している。
その結果、ソリューション事業では、生産財系BtoB向けや小売・整備サービスの強化を進め、タイヤを軸にデータ・サプライチェーン連携を拡充した。これにより、同社は単なる製造業から、顧客価値と社会価値の両面で成果を生む事業体へとシフトしつつある。経営陣交代は、この「質を伴う成長ステージ」への移行と歩調を合わせた動きだといえる。
100周年に向け次世代経営を強化
創立100周年を5年後に控える同社は、ビジョンである「サステナブルなソリューションカンパニー」の実現を経営の柱に据える。その中核概念が企業コミットメント「Bridgestone E8 Commitment」であり、EnergyやEcologyなど「E」で始まる8つの価値を通じて社会課題と事業成長の両立を図る。同社はこの理念を未来からの信任を得る「軸」と位置づけ、グローバル規模で共有している。 石橋体制のもとでは、財務健全化と構造改革を優先課題として進めてきた。今後は森田氏が中心となり、成長分野への再投資やデジタル・サプライチェーン活用の深化を担う。経営の現場重視を掲げ、「現物現場から価値創造にフォーカス」する方針のもと、組織文化の世代更新も並行して進める見通しだ。
ESG(環境・社会・ガバナンス)分野への取り組みも進展している。同社は2025年に新規事業の評価にESG分析・評価コンサルティングを導入し、財務指標だけでは捉えにくい社会的価値の測定を制度化した。環境負荷だけでなく、供給網全体の影響を分析する仕組みを採り入れ、事業初期段階から非財務リスクを可視化する狙いがある。 これにより、気候変動やサプライチェーン倫理など複合的な課題への対応力を高める。ブリヂストン探索事業開発推進第一部は「収益性と社会的価値の両立を定量的に検討できる枠組みが整った」と説明しており、今後は既存事業から派生する新産業領域への応用も視野に入れる。
市場変化に対応する経営刷新
世界のタイヤ市場は、電動化や自動運転の拡大、リサイクル資源の循環など構造転換期にある。特に欧州・中国市場で環境性能基準が強化される中、開発スピードと供給網のアジリティ(俊敏性)が企業競争力を左右している。ブリヂストンはグローバルで約14万人の従業員を抱える製造グループであり、アジアや欧州を中心に生産・販売拠点を運営している。 同業では、脱炭素対応やデジタル基盤整備を巡って内資・外資を問わず再編の動きが加速している。業界関係者の間では「ブリヂストンの若返り人事は、成熟業界における次世代投資型経営の象徴」とみる声もある。グローバル人材が直接経営トップを担うことで、現場起点の戦略転換がどこまで実現できるかが注目される。
次期体制の発表は今後へ
2026年以降のグローバル経営執行体制については現在検討中で、決定次第発表される予定だ。森田氏は経営体制刷新を節目とし、「地域統括・事業統括・機能統括を横断した最適経営」の実現を掲げている。ブリヂストンは、事業領域の再定義とサステナビリティ経営を結合させ、創立100周年を契機に企業価値の持続的な向上を目指す姿勢を明確にした。新体制の下で、グローバル市場における人材運用や非財務戦略の浸透が主要なテーマになるだろう。