浅野撚糸(岐阜県安八町)は2025年12月、東京都港区南青山の「SUPER ZERO Lab」内に新拠点「エアーかおる東京丸」を開設する。岐阜本社の「エアーかおる本丸」、福島県双葉町の「エアーかおる双葉丸」に続く3拠点目で、東京では初となる直営販売店となることが分かった。オープンを記念し、2025年12月9日から14日まで6日間、グランドオープンセールを実施する予定だ。
都市圏での販売拡充は、全国でのブランド浸透を加速させる狙いがある。浅野撚糸はこれまで生産拠点を中部・東北に分散し、販売も主に地方百貨店やオンラインに依存してきた。南青山という立地を生かし、旗艦ブランド「エアーかおる」の発信拠点とする方針だ。協業先であるテキスタイルデザイナー梶原加奈子氏との共同空間「SUPER ZERO Lab」を再整備し、東京での新店舗展開に踏み切った。
2,000万枚超の人気ブランド、新店舗で常設展開へ
「エアーかおる」は2007年に開発された高機能タオルで、累計出荷枚数は2,000万枚を超える。独自技術「SUPER ZERO(R)」による空気を含んだ撚糸構造が強みで、一般的なタオルの約1.5倍の吸水力と速乾性を持つとされる。新店舗「東京丸」では、従来の「エアーかおる」シリーズに加え、梶原氏のブランド「ASANO KANAKO KAJIHARA」や「矢橋工房」「わたのはな」を常設販売する。加えて、これまで期間限定で扱ってきたアウトレット商品も常設化し、顧客の購買機会を広げる。
店舗は東京メトロ表参道駅に近い芥川青山ビル1階に位置し、営業時間は午前11時から午後7時までを予定する。東京初出店という節目を踏まえ、2025年12月9日から翌年3月末まで、来場者へのフェイスタオル配布キャンペーンも実施する。
南青山での再始動、共同拠点で発信力強化
浅野撚糸は2022年に同エリアで「Ms.南青山」を開設し、2024年に梶原氏との協業で「SUPER ZERO Lab」をリニューアルした。今回の「東京丸」開業はその延長線上にあり、技術発信とデザイン融合を両立した店舗モデルと位置づけられる。同社はこれまで地方発のブランドとして「半分サイズのバスタオル」という新市場を創出してきた。社長の浅野雅之氏の妻・真美氏の発想から生まれた“小型バスタオル”は、2010年に「エニータイム」として発売され、全国的なヒットにつながった経緯がある。
「SUPER ZERO Lab」では撚糸技術の実演や素材展示を通じて、繊維技術に関心を持つ来訪者の交流の場を目指す。同社は東京拠点の設置により、消費者との接点を深め、技術ブランドの認知向上を狙う考えだ。
環境需要が追い風、持続性を前面に
バスタオルの市場では、家庭用からギフト需要まで商品多様化が進む一方、価格競争の影響も大きい。浅野撚糸は「半分サイズ」発想の元祖企業とされ、省資源かつ長寿命の製品づくりに一貫して注力してきた。近年は省水型・速乾型のタオル需要が世界的に高まり、「SUPER ZERO(R)」技術の吸水性と軽量性が再評価されている。自社技術で“地球温暖化を防止する新しい時代を提唱する”とし、環境配慮の観点からも訴求を強める。
今回の東京店舗開設は、ものづくりとブランドデザインを融合させたモデルとして、今後の国内繊維産業にも波及する可能性がある。業界関係者の間では、「地方発ブランドが都市部で持続的な発信をどう行うか」が注目されており、東京丸の運営体制が一つの試金石になりそうだ。
地方発ブランドの戦略転換と今後
浅野撚糸は創業以来、撚糸技術に特化して成長してきた中小企業であり、地場産業を支える中核の一つといわれてきた。岐阜県安八町の本社機能に加え、福島県双葉町に設けた「双葉丸」では東日本大震災からの復興支援的な役割も担っている。今回の東京出店は、地域製造企業が都市圏に発信拠点を持つ流れを象徴する。製品生産は引き続き本社・工場で行い、販売・発信を東京が担う“分業型モデル”が確立することで、産地間連携にも広がりが生まれる可能性がある。
一方、都心店舗の運営コストや供給体制の維持など課題も残る。特に地方中小企業が直営店舗を維持するには、販路拡大とブランド維持の両立が求められる。企業関係者は「東京丸の成果が次世代の展開方針を左右する」とみており、今後の運営次第では他業界にも波及する動きとなるだろう。
持続可能な繊維産業への広がり
同社が目指すのは、撚糸技術の普及を通じた持続可能な繊維産業モデルの構築だ。廃棄削減や洗濯エネルギーの軽減につながるタオル製品は、環境負荷低減の一助になると期待されている。これまでの受賞歴やメディア露出を通じて、「エアーかおる」は地方発ブランドの成功例として注目されてきた。今後は東京を拠点に、海外展開や業界横断的なコラボレーションも視野に入れる構えだ。
地方発の製造企業が自社技術とデザイン力を武器に首都圏へ進出する動きは、地域製造業の新たな方向性を示す。エアーかおる東京丸の定着度合いが、繊維業界全体の都市発信戦略のモデルとなるかが議論の中心になるだろう。