株式会社エーピーコミュニケーションズ(東京都千代田区)は2025年12月12日、AIとクラウドネイティブ技術を組み合わせた次世代エンジニア育成のための実践型プログラム「クラウドネイティブBootCamp ~AI時代を支えるPlatform Engineering~」を2026年1月から開催することを明らかにした。マイクロソフトのAzureやKubernetes、Infrastructure as Code(IaC)などを題材に、開発者体験(DevEx)やAI活用をテーマとした4日間の集中講座となる。
エーピーコミュニケーションズは、生成AIの急速な普及がソフトウェア開発の現場に構造的な変化をもたらしていることを踏まえ、これまでのインフラ自動化やDevOps支援に加えて、Platform Engineeringを担う人材の育成を急ぐ狙いだ。クラウド基盤構築をはじめとする既存の専門性にAI対応力を加えることで、企業や開発組織の生産性向上を支える技術者の育成を図る。
AI時代の開発現場に対応した実践型プログラム
同プログラムは、クラウド環境での開発と運用を体系的に学ぶ内容で構成される。Azure上でKubernetesやGitHub、Terraformなどを活用し、基盤設計からデプロイまでの一連の工程を実際に体験する。単なる技術習得にとどまらず、「なぜその設計に至るのか」という意図を重視し、開発者が使いやすい基盤を設計する視点を養う点が特徴だ。講師は同社クラウドネイティブ支援専門チーム(ACS事業部)の現場エンジニアが務める。受講者はSlackやMiroなど実際に現場で使われるツールを通じ、チーム開発のプロセスやカルチャーにも触れられる。オンラインで全国からの参加が可能で、希望者はプログラム修了後に採用選考に進むこともできる。
同社はこの仕組みを、採用と育成を一体化した実践的施策と位置づけている。従来の転職市場では難しかった、組織文化や働き方を理解した上で入社判断ができる仕組みを整えることで、入社後のミスマッチの減少を狙うという。履歴書不要で参加でき、履修後に自社との相性を確認できる形式を採用している。
エンジニアが「使われる基盤」を設計する力を養う
プログラムの目標は、クラウド構築やWeb開発経験を持つ中堅層を中心に、AI活用を前提としたモダンアーキテクチャ設計を実践的に学ぶことだ。Azure Kubernetes Service(AKS)によるクラウドネイティブWebアプリの基盤構築、GitHub ActionsやArgo CDを利用したCI/CD導入、さらにGitHub CopilotやTerraform MCPによるIaC設計の効率化までを網羅する。受講者は短期間でPlatform Engineeringの思想を理解し、開発生産性を高めるための設計思考を習得する狙いがある。同社はこれを通じ、インフラと開発の垣根を越えたスキル移行を促進したい構えだ。
変革期を迎える開発現場、AI活用が生産性の鍵に
エーピーコミュニケーションズがこの取り組みを始める背景には、生成AI時代の開発体制の変化がある。GitHub CopilotなどAIアシスタントの台頭により、コード実装の効率は大きく向上する一方で、組織単位での設計標準化やリポジトリ運用が課題となっている。 同社エンジニアによるブログ「INSIDE APC」では、AI駆動開発が進む中で発生する「リポジトリ乱立」や「オーナーシップ不明確化」などの問題を指摘してきた。開発資産を一元管理する「Backstage」などの仕組みを活用し、設計意図の共有や構成管理の最適化を図る重要性が強調されている。
こうした課題感の共有もあり、今回のBootCampでは単にコードを書く技能ではなく、AIを活用した統合的な開発基盤運用の思考を養うことを重視している。現場で求められるPlatform Engineeringの知識体系を、短期間で再現することを目指す。
技術支援からDX推進まで幅広く展開する企業
同社は1995年設立のNeoSIerとして、ITインフラ自動化や生成AI・データAI基盤の導入支援、ネットワークやクラウドセキュリティ対策に強みを持つ。近年はクラウドネイティブ化支援やDX推進を支える内製化支援にも注力しており、DatabricksやMicrosoft Azure、Backstageなどの先端ツールを活用したエンジニアリング支援を拡大している。提供するサービスは「Automation Coordinator」「NEEDLEWORK」「PlaTT」「AirThreads」など多岐にわたり、企業の開発基盤整備を包括的に支援する。特にPlatform Engineering分野では、クラウドネイティブ体制への移行を支える講座やトレーニングを開発し、企業・官公庁向けの人材育成施策も増やしている。
エンジニア育成市場にも波及か 実践モデル化の動き
同社がBootCamp形式のプログラムを採用するのは、教育と採用を連動させる動きが広がる中での試みだ。各社で生成AIを活用した構築支援ニーズが高まり、クラウドやIaCを扱える人材の需要が拡大している。オンライン完結型で参加ハードルが低い点も特色で、全国のエンジニアに実践機会を開く設計になっている。業界関係者の間では、生成AI対応のPlatform Engineering教育は企業内研修でも進みつつあり、エーピーコミュニケーションズのように採用直結型で展開する取り組みが今後増えるとの見方が出ている。
同社は、学習成果と採用後の活躍との関連データを取得しながら、プログラムの継続的改善を図る方針だ。BootCampで育成したエンジニアが実案件でどのように新技術を活用できるかが成果検証の焦点になる。 また、クラウドネイティブ開発を支える人材の裾野を広げるには、各社で標準化された教育モデルの構築や、産学連携によるカリキュラム策定も課題に浮上している。エーピーコミュニケーションズの試みが、その先行事例としてどこまで定着するかが今後の注目点となるだろう。