新東工業株式会社(愛知県名古屋市)は2025年12月9日、光通信市場向けの精密寸法測定機「SMIC(エスミック)シリーズ」の販売を強化することを明らかにした。生成AIの普及やクラウドサービス拡大に伴い増加するデータセンター需要に対応し、光ファイバー部品の精度向上ニーズを取り込む狙いだ。同機は光コネクター部品「MTフェルール」の寸法を高精度に測定できるのが特徴で、光通信品質の確保に資するとしている。
同社は光通信分野での信頼性向上を背景に、製造工程全体での精度改善を進める方針だ。MTフェルールの孔径のずれ(偏心量)は伝送時の光損失を引き起こす要因とされており、これを抑制することで通信性能を高められる。新東工業は測定データを製造プロセスにフィードバックできる仕組みを提供し、光部品メーカーの品質管理向上を支援する。
SMICシリーズが高精度測定を実現
SMICシリーズは、孔偏心量を0.1マイクロメートル以下という極めて高い精度でデータ化できる装置だ。測定結果に基づき自動的に修正・補正を行うため、製造工程の再現性が高まる。これにより、光信号伝送時の光損失を最小限に抑えられるとされる。光通信向けの製品群の中で、同シリーズはすでにMTフェルール製造メーカーで寸法基準機として利用されており、品質の業界標準を支える役割を果たしつつある。また、同社は従来機の精度・操作性を維持しつつ量産検査用モデルの供給を進めており、より多くのメーカーが検査ラインで使用できるよう体制を整えている。
生成AI需要が光通信市場を押し上げ
近年、生成AIやクラウド技術の急拡大がデータセンター建設の増加を促している。データ処理量の膨張により、高速・大容量通信を支える光ファイバー網の整備が鍵となる。これに伴い、コネクターやフェルールといった精密部品の寸法精度への要求が一段と高まっている。特にMTフェルールは複数の光ファイバーをまとめる構造であり、孔位置のばらつきがわずかでも光損失の増加につながる。業界では偏心量0.1マイクロメートル以下という水準が求められるようになっており、測定機の高精度化は必然の流れとなっている。
市場拡大に向け販売体制を強化
新東工業はSMICシリーズを光通信部品メーカー向けの量産検査用測定機として位置づけ、早期に年間販売台数を20台以上へ引き上げる方針を掲げている。既に国内外の主要メーカーに導入が進みつつあり、光データ通信分野での存在感を高める考えだ。同社は1934年創業の製造機器メーカーで、表面処理装置や集塵設備などを手がけるほか、計測・検査技術の分野でも事業を拡大している。名古屋市に本拠を置き、東証プライム市場に上場している。
競争激化の光通信分野で精度競争
光通信市場では、中国や台湾をはじめとしたアジアメーカーの進出が活発化しており、製造段階での歩留まり改善や検査時間の短縮が競争力を左右する。データセンターの運営企業や通信キャリアは、信頼性の高い光接続を求めて部品精度の標準化を進めており、それに耐え得る測定技術が求められている。そのなかで新東工業のような日本製計測機器は、品質の安定性やサービス体制の面で依然優位性があると業界ではみられている。高精度測定機による生産ライン自動化への寄与も期待され、関連企業間の技術連携が進む可能性がある。
光通信機器市場は今後もデータ流通量の増加に合わせて成長が続く見通しだ。一方で、高精度測定機の製造には特殊部材や熟練技術が必要であり、生産リードタイムの長期化が課題として残る。各国でデータセンターの新設計画が相次ぐなか、安定供給と技術者育成の両立が焦点となりそうだ。業界関係者の間では、今回の新東工業の取り組みが国内製造業の計測分野における再成長の契機になるとの見方もある。精度と生産性の両立をどう実現するかが今後の鍵となるだろう。