株式会社マーケティングセンター(東京都豊島区)は2025年11月28日、同区に本社を置く株式会社マーケティングリサーチサービスへの完全子会社化を発表した。両社はともに創業から65年以上の歴史を持つ調査会社で、今回のグループ化により、フィールドワーク型リサーチの体制を強化するとしている。新経営体制も同日付で発足した。
グループ化の狙いは、調査分野の相互補完にある。マーケティングセンターは自動車や外食産業への強みを持つ一方、親会社のマーケティングリサーチサービスは食品・日用品・化粧品分野で実績を重ねてきた。両社が得意領域を組み合わせることで、消費財から耐久財までを網羅する総合的なリサーチ体制を目指す考えだ。また、統合に合わせて取締役社長に横溝英夫氏(リサーチサービス兼任)、取締役に岩川恵理子氏(同社社長兼任)が就任し、旧社長の大野秀隆氏は退任した。
統合で拡大する調査領域
マーケティングセンターは、インタビュー調査や会場調査(CLT)、家庭での製品試用を行うホームユーステスト(HUT)など、フィールドワークを伴うリサーチ手法に強みを持ち、クライアント企業の商品開発・市場分析を支えてきた。新たに親会社傘下となることで、同社が主力としてきた自動車や外食分野に加え、食品や化粧品といった生活関連分野の案件も拡大する見通しだ。一方で、マーケティングリサーチサービスは日用品・化粧品の分野で長年の信頼を築いており、両社の融合によるノウハウ共有で、データ品質や調査設計力の向上も図る。業界関係者は「両社の統合は、調査手法の細分化が進む市場で統合型リサーチの需要を取り込む動き」とみている。
今回の完全子会社化に合わせ、マーケティングセンターの経営体制は刷新された。新社長の横溝氏は、マーケティングリサーチサービスの取締役職を兼任しており、グループ横断的な経営資源の最適化を担う。取締役に就いた岩川氏は親会社の代表取締役社長で、グループ統合後のシナジー創出を主導するとみられる。両社の本社が同じ豊島区内に所在することも統合を後押しした要因だ。業界アナリストは「地理的な近さと創業期からの技術基盤の共通性が経営統合を円滑にした」と見る。今後のグループ運営では人材交流や教育制度の共通化も検討対象となる可能性がある。
国内リサーチ業界の再編進展
国内のリサーチ業界では、オンライン調査の普及とAIを用いた分析需要の拡大を背景に、企業再編が加速している。複数の大手マーケティンググループでは、従来の調査部門の統合や海外リサーチ会社の買収を通じて、データ取得から分析・コンサルティングまでを一貫提供する体制を整える動きが広がる。
こうした中で、現場調査(フィールドリサーチ)を専門とする企業同士の統合は珍しく、業界では「データ品質の確保を軸とした垂直統合」と位置づけられる。
市場ではデジタルマーケティングやAI分析が注目される一方で、消費者意識の多様化に対応するため、質的データ(定性情報)を重視する動きが出ている。マーケティングリサーチサービスグループの拡大は、こうした潮流に沿った形だ。特に、オンラインデータの信頼性が課題視される中、実地調査の価値が見直されており、両社の提携が調査モデルの多様化を促す可能性がある。調査業界では、電通グループがリサーチ機能の強化とグローバル展開を進め、博報堂もAI分析ツールを相次ぎ導入している。今後は、純粋なフィールド調査会社が大手販社系列に加わる事例が増えるとみられ、データ収集から戦略立案までの一体運用を支える体制が整いつつある。調査の信頼性向上と効率化の両立をどう実現するかが、業界全体の課題として浮上している。
融合による付加価値創出が焦点
マーケティングセンターは今後、親会社グループ内での知見共有や新技術導入を通じ、クライアント向けの迅速なデータ提供体制を整える方針だ。業界関係者の間では、グループ統合によって案件の大型化や海外調査の受注拡大につながるとの見方がある。今後は、長期的にはオンライン調査や生成AIを用いた定性分析とのすみ分けも課題になるとされる。現場型リサーチの強みをどのようにデジタル時代に適応させるかが、両社の経営にとって重要なテーマとなるだろう。融合の成果を安定的に事業拡大へ結び付けられるかが、今後の焦点となりそうだ。