株式会社JTB(東京都品川区)は2025年12月10日、ゴーウェル株式会社(東京都中央区)と「高度外国人財採用伴走RPO」を締結したことを明らかにした。JTBグループが世界展開に対応した人財基盤を整備する取り組みの一環として、外国籍人財の採用から定着までを支援する体制を確立する。観光業界大手による本格的な採用アウトソーシング導入は珍しく、グローバル人財確保に向けた新たな動きとして注目される。
JTBは世界的な人材流動化の加速と労働人口減少への対応を背景に、海外市場での競争力確保を重視する。今回の提携により、ゴーウェルが採用戦略の立案から候補者選定までを一貫して支援するRPO(Recruitment Process Outsourcing)を導入する。両社の連携は、多国籍組織の構築と企業文化の再設計を狙ったもので、JTBグループにとって経営基盤の転換を伴う取り組みとなる。
海外展開強化へ人財戦略を刷新
JTBはここ数年、アラブ首長国連邦での拠点開設や米大手旅行メディアNorthstar Travel Groupの買収など、グローバル事業の再編を進めてきた。従来の旅行販売中心のモデルから、地域価値創造を伴う「交流創造事業」へと転換を図る中、人財の多様性を企業成長の軸に据える方針を打ち出している。今回の連携では、異文化理解を尊重する組織風土の醸成に重点を置き、ゴーウェルの外国人材採用支援の実績を生かして採用から教育までを体系化する。大八木勢一常務執行役員は「多様性を表層的な演出で終わらせず、企業文化の根幹に据える設計が求められる」と語り、自社変革の一環であることを強調した。
1万社超の支援実績を持つゴーウェルと協業
ゴーウェルは、日本とアジアを中心に通訳翻訳、外国人材紹介、教育事業を展開しており、国内外で1万社超の採用支援実績を持つ。社員の国籍は十数カ国に及び、多様性経営を実践する企業として知られる。同社は「採用は文化を創る起点であり、多国籍人財が真に活躍できる環境づくりは社会全体のアップデートにつながる」とする。今回のJTBとの連携では、外国籍人材の採用を通じて同グループのグローバル展開を後押しし、日本企業の採用文化の変革事例とする狙いもある。
グローバル人財の定義を明確化 新卒採用改革も
JTBグループは、言語・文化・価値観の壁を越え、世界中の多様な人財と共創する人材を「グローバル人財」と定義している。今回のRPO導入は、その定義に基づき採用・育成体系を再構築する試みと位置づけられる。さらに新卒採用でも「グローバルコース」を新設し、海外事業でリーダーを担う人材育成を強化する。人事戦略をグループ全体の経営計画と一体化することで、海外市場や訪日インバウンド領域での競争力向上を図る構えだ。
観光業界全体に波及も
国内観光業界では、高度人材の確保が課題となっている。訪日観光の回復基調に加え、各国の人材流動化が進むことで、語学力や異文化対応力を備えた外国籍人材の需要が高まっている。業界関係者の間では「観光・交流を軸にした企業が、採用文化の再設計に取り組む意義は大きい」との声もある。外国人材に特化した採用支援を行う企業と旅行サービス大手の連携は、業界内での多様性経営の広がりを促す可能性がある。グローバルに事業を展開する他の旅行関連企業にも影響が及ぶことが想定される。
企業文化変革への挑戦 両社のトップが語る意義
大八木勢一常務執行役員は「ゴーウェルとの協働はJTBグループそのものを再構築する挑戦だ」と述べ、多様な人財が交流を生み出す企業文化を育てることの重要性を指摘した。 一方、ゴーウェルの松田秀和社長は「グローバル展開と人財戦略を一体で進める企業が現れたことは、日本経済全体にとって意義深い」とコメント。採用現場を通じて、多国籍人財が活躍できる社会への転換を後押しするとしている。両トップの発言には、単なる採用支援を超えた組織変革への決意がにじむ。
JTBは今後、外国籍社員の採用・登用を通じて企業文化の多様化を進める方針だ。掲げるビジョンは「違いを価値に変え、世界をつなぐ」。人財の多様性を経営資源と捉え、交流創造事業の基盤を強化することで、国際的な市場で存在感を高めようとしている。ゴーウェルも、今回の協業を機に他企業とのRPOモデル導入を拡大する見通しで、採用を起点とした組織文化改革を支援する取り組みを続けるとする。双方の協業が、企業の採用戦略を再定義し、日本的雇用慣行の見直しを促す契機となるかが焦点となりそうだ。