株式会社FullDepth(茨城県つくば市)は12月9日、シリーズDラウンドで総額9.5億円の資金調達を完了したと明らかにした。三井住友海上キャピタルやあおぞら企業投資、Beyond Next Ventures、DRONE FUNDなど計9社・個人投資家が出資した。調達資金は水中インフラのデジタル化推進と、自律型無人潜水機(AUV)の研究開発に投じる方針で、国産水中ドローン事業の拡大を図る。
同社は水中構造物の老朽化や人手不足など、海洋産業が抱える課題の深刻化を踏まえ、AIやデジタル技術による維持管理体制の効率化を目指す。今回の調達は、社会インフラの保守における安全性向上と自動点検技術の確立を進めるための基盤強化に位置づけられる。研究開発を通じ、遠隔操作型ドローン(ROV)からAUVへの技術移行を進め、点検・調査作業の無人化を目指すとしている。
9社が出資 解析力高め市場競争力向上へ
今回の出資には、三井住友海上キャピタル(東京・中央)、あおぞら企業投資(東京・千代田)、Beyond Next Ventures(東京・中央)など大手ベンチャーキャピタルのほか、DRONE FUNDやミライドア、ゼンリンフューチャーパートナーズ、JMTCキャピタルらが参加した。個人投資家としてジェームス文護氏と菊池功氏も加わった。調達した資金は、水中計測データの収集・解析能力の向上に重点投資し、水中点検・解析サービスの高度化と適用分野の拡大を図る。FullDepthによると、従来のROV技術を活用しつつ、より広範な水域での自動航行技術を開発することで、水中産業全体の効率化と安全性向上に寄与する狙いがある。
ドローン事業拡大 インフラ老朽化に対応
FullDepthは2014年設立の国内の水中ドローンメーカーで、主力製品「DiveUnit」シリーズを中心に水中構造物の点検やダム・港湾・海上風力発電設備などの調査を実施している。東京拠点では自社ドローンを活用した水中計測とデータ分析を通じてインフラの維持管理を支援している。
同社は国土交通省の技術カタログに登録されており、橋梁や港湾施設などで点検支援技術として使用された実績がある。ドローンを活用した作業は作業員が潜水しなくてもダム内部や港湾の水中構造物を確認できる利点があり、安全性の向上と人材不足の緩和に寄与すると期待されている。
水中ドローン市場、25年度に62億円へ拡大
インプレス総合研究所によれば、国内の産業用水中ドローン市場は2021年度の販売規模で約23億円、2022年度には29億円と25%増となった。2025年度には62億円規模まで拡大する見通しで、社会インフラの点検、海洋調査、環境モニタリング、洋上設備検査など用途が多様化している。
国土交通省も水中ドローン技術の導入促進を掲げ、点検支援技術としての利活用を進めている。調査現場での技術実証やオペレーター育成も始まっており、制度面の整備と同時に普及を支える取り組みが進展している。一方で、解析技術や人材育成の課題が残ることから、研究開発の継続性が求められている。
創業の流れと事業方針
FullDepthの代表取締役社長・吉賀智司氏は、2015年に共同創業者の伊藤昌平取締役CSOと共同で深海ロボット開発を開始した。両氏は筑波大学の同窓生で、2016年に同社役員に就任、2022年から吉賀氏がCEOを務める。ルーツは深海探査への関心にあり、国産の水中ロボットで「潜らずに見える海底調査」を実現する技術を追求してきた。現在は自社製ドローンによる現場点検と並行して、AIやクラウド解析を組み合わせた「水中インフラDX」の確立に注力している。国内外で需要が高まる洋上風力発電分野にも参入しており、水中点検プラットフォームとしての拡張をにらんだ研究開発を進めている。
自律型水中機で新基盤構築へ
FullDepthは今後、収集データの活用範囲を拡げつつ、AIによる異常検知や自動航行制御の実装を進める計画だ。橋梁や管路など複雑な構造物の長期モニタリングを視野に、AUV開発を本格化する。水中インフラのデジタル化は、インフラ保全・再生投資の新たな柱と位置付けられるだろう。政府による港湾・河川管理の効率化方針とも連動しており、自律型技術の普及がどこまで進むかが次の焦点となる。