株式会社DiDiモビリティジャパン(東京都港区)は2025年12月9日、大分県別府市でタクシー配車アプリ「DiDi(ディディ)」のサービス提供を再開することが分かった。新たに三重県と北海道へサービスエリアを拡大し、同社の国内展開は32都道府県に拡大する見通しだ。アプリの累計ダウンロード数は1,000万件を超えており、国内のモビリティサービス拡充に向けた動きが一段と進む。
同社は観光地や地方都市での移動手段の多様化を狙いとしている。都市圏に比べ公共交通が限られる地域ではタクシー需要が根強く、再開によって地域住民や観光客の利便性を高める狙いがある。また、インバウンドの回復を背景に観光客の交通需要が増加傾向にあり、地方でのサービス強化を進める方針だ。
別府市や北海道など3道県で新展開
今回再開されるのは大分県別府市で、12月9日午前10時から利用可能となる。さらに12月16日からは北海道の岩内・余市地区、三重県の松阪市(旧嬉野町と三雲町区域を除く)および多気町、明和町、大台町にも新たに展開する。これにより、国内32都道府県での運行体制が整う。
同社は全国の提携タクシー事業者と連携し、アプリでのマッチング精度の向上や車両供給体制の強化を進めている。国内では、平均5分で車が到着する水準を維持しており、アプリ経由での利用者増加を見込む。
1,000万ダウンロードを突破、利用者層拡大
DiDiは、乗車地点と目的地を入力すると提携車両が自動で配車される仕組みを持つ。目的地を事前入力することで、乗客が経路説明をする必要がなく、キャッシュレス決済にも対応する。煩雑な現金のやりとりを省く点が支持されており、2025年5月時点でアプリの累計ダウンロード数は1,000万件を超えた。
国内では都市圏から地方にかけてアプリ配車が浸透しており、DiDiは他社サービスと並ぶ主要アプリの一角を占めている。業界関係者は「DiDiの拡大はタクシー需給の最適化を後押しする」とみており、運転手不足や観光需要の波動に対応する手段としての地位が高まっている。
市場ではGOやUberなど競合が全国展開
タクシー配車アプリ市場では、DeNAと日本交通グループが出資する「GO」が47都道府県すべてに進出し、国内最大のシェアを持つ。米国発の「Uberタクシー」も2025年12月までに岩手県と佐賀県で新展開を進め、全国展開を完了した。さらにソニーグループの「S.RIDE」が首都圏や中京圏を中心に存在感を高めている。
この中でDiDiは32都道府県に拠点を広げ、中国の滴滴出行(Chuxing)とソフトバンクの合弁会社として、日本市場での独自基盤を構築してきた。機能面ではシンプルな操作性と安定した配車網を特徴としており、外国人旅行客にも利用しやすい多言語対応を進めている。
地方交通課題の解消へ、全国展開を模索
DiDiモビリティジャパンは2018年の設立以降、都市部を中心にサービスを拡大してきたが、コロナ禍による一時的な休止地域も存在していた。今回の別府市再開はその再整備の一環であり、観光との親和性が高いエリアへの重点投入となる。別府市は温泉観光地として年間数百万人の観光客が訪れる地域で、観光需要を先取りした対応とみられる。
一方で、タクシー事業者の人手不足や高齢化が続く中、アプリ配車による効率化は地方の交通維持にも寄与する。DiDiが地域と連携する仕組みを構築できるかが今後の鍵を握る。
スマートモビリティの波と今後の課題
タクシー配車アプリの拡充は、政府が進める「スマートモビリティチャレンジ」や各自治体のデジタル交通政策とも連動している。北海道や九州などの観光地では、デマンド交通の導入や MaaS(移動サービスの統合化)との接続も議論されており、配車プラットフォームの役割が拡大している。DiDiは全国的なインフラとしての機能を担うことを意識している。
ただし、アプリ普及が都市部中心で進んできた経緯もあり、地方での運転手登録数や無線システムとの連携に課題を残す。競合他社が全国展開を完了した中で、DiDiがいかに地域事業者との協調を深めていくかが焦点となるだろう。
観光回復とデジタル交通連携の動き
地方自治体では観光振興策の一環として、デジタル通貨や旅先納税制度などの導入が進み、移動サービスの利便性向上に注目が集まる。今回のDiDi再開はこうした流れの中で、地方交通の基盤強化に直結する動きといえる。インバウンド客にとってもスマートフォンで完結する配車手段が整備されることで、地域の移動体験が大きく改善されることになる。
一方で、配車効率化と並行して、地域のタクシー事業者がどう共存するかも問われる。構築される新たな移動ネットワークが、地方経済の再活性化につながるかが注目される。
今後の展開と成長余地
DiDiモビリティジャパンによると、今後も全国各地でサービスエリアの拡大を検討する方針だ。観光地や地方都市での導入拡大に加え、AIを活用した需要予測や配車最適化などにも力を入れる。中国の親会社である滴滴出行は無人運転のパイロット事業を開始しており、技術動向の面でも注目が集まっている。
技術革新と交通政策の結節点に立つDiDiの動きは、日本のモビリティ産業の行方を占う指標の一つと言える。地域交通の維持と観光の活性化を両立できるかが今後の課題となりそうだ。