ビーウィズ(東京都新宿区)は2025年12月8日、自律型AIエージェントが年末調整業務を支援する「AI年末調整サービス」を発表した。全国約4,000万人が関わる大規模な事務作業を対象とするもので、同社の試算では対応時間を約65%短縮できるという。AI前提の業務設計を採用し、効率化と品質向上の両立を実現したと明らかにした。
同社が今回の取り組みを進めたのは、企業のAI導入が進む一方で成果が十分でない現状を踏まえたためだ。マサチューセッツ工科大学の報告書によれば、AIを導入した企業の95%が投資対効果を得られていないとされる。ビーウィズは「人の手を前提」に構築された従来の業務フローを全面的に見直し、AIが常時稼働する新たな体制へと移行することで、全体最適を実現する狙いを示した。
2万人規模企業で作業時間が3分の1に減少
AI年末調整サービスでは、申告書や証明書のスキャン以降の判定、不備検知、確認作業、通知処理までをAIエージェントが自動で行う。従来は人員が担ってきた一次・二次チェックも含めて自動化する仕組みだ。試算によると、従業員2万人規模の企業で対応時間は2,930時間から1,039時間へと約65%削減でき、人員も19人から6人程度に減らせる。同社はAIとロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を組み合わせることで、人的負荷を抜本的に軽減する運用モデルを確立したとしている。
AI活用型業務へ転換、BPO再編も視野に
ビーウィズは、今回の成果を年末調整の枠にとどめず、AIエージェント前提のオペレーション設計を今後のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)分野全体に広げる方針だ。AIが定型業務を担い、人が判断を要する例外処理に集中する配置は、長年課題とされてきた属人化や手戻り問題の解消にもつながるとしている。業界関係者の間では、こうした設計思想がBPOモデルの再編を促す可能性があるとの見方が出ており、バックオフィス業務をAI仕様に更新する動きが広がる契機となるとみられている。
AI導入、日本最大級の事務業務にも拡大
年末調整は、全国で毎年約4,000万人の労働者が対象となる日本最大級の事務業務である。人事労務向けSaaSの普及によりオンライン化は進んだものの、紙運用や制度対応の多様さが完全自動化の壁となっていた。ビーウィズは、AIがこうした複雑な手続きにも適用可能であることを実証する狙いだ。同社は2000年設立で、東証プライム上場企業だ。コンタクトセンターやBPO業務を主力とし、自社開発したクラウドPBX「Omnia LINK」を軸にAIやDX技術を組み合わせたソリューションを提供している。
国内では生成AIや自律型AIエージェントの活用が急速に広がっているが、多くの企業が実効性を示せずにいる。ビーウィズのように業務をAI中心で再設計する事例はまだ少なく、「AIを後付けする時代」から「AIを前提に組み込む時代」への転換が進みつつある。政府も2025年の人工知能基本計画(案)で、AI活用による業務効率化を行政や企業活動全体に広げる方針を掲げている。AI利活用の加速と信頼性確保を両立させる制度設計が求められる中、今回の取り組みはその方向を先取りした動きとも言えるだろう。
AI時代の人と業務のあり方が焦点に
ビーウィズはAI年末調整の運用を皮切りに、他の人事・総務領域にも展開を検討している。AI前提の業務設計を一般化することで、生産性向上に加え、人的リソースをより高度な業務へ移行させる環境整備につなげたい考えだ。いっぽうで、AI処理の正確性や説明責任、セキュリティ確保といった課題も残る。業界関係者は、AI導入効果を持続的に評価し、運用に透明性を持たせるガバナンス体制の構築が鍵になるとみている。AI活用の標準化が進む中、いかに人とAIの協働体制を築くかが、今後の焦点となるだろう。