株式会社アンドパッド(東京都港区)は2025年12月9日、建設業に特化したAIプロジェクト「ANDPAD Stellarc(アンドパッド・ステラーク)」を始動し、AIソリューション事業および一連のAIプロダクト提供を開始したと公表した。クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を通じて蓄積してきた業界最大級のデータと業務知見を活用し、AIによる業務効率化と技術継承を両立する新たな事業の柱と位置づける。
同社は「建設業界における担い手不足と技能伝承の課題を、AIによって構造から解決する」と説明している。AIモデルやエージェントを連携させる「群知能(Agentic AI)」構想のもと、経営から現場までの業務プロセスを統合的に支援する仕組みを構築していく方針である。
建設データを基盤にAIソリューションを展開
ANDPAD Stellarcの中核は、AIソリューション事業とAIプロダクト群の二本柱である。AIソリューション事業では、建設業界に精通した営業・コンサルティング担当者とAI開発チームが連携し、顧客の施工データや現場情報を活かした最適化計画の立案を支援する。同社はすでに年間1万回を超える利用説明会を通じて蓄積したQCDSE(品質・原価・工期・安全・環境)の改善ノウハウを持ち、これを基にAI導入から業務定着までを伴走型でサポートする体制を整える。
現場に直接貢献するAIプロダクト群を提供
AIプロダクトは、若手技術者の育成から積算、工程管理まで多岐にわたる業務を対象に設計されている。対話型の「AIアシスタント」はプロジェクトや役割に応じて最適な情報を提示し、作業をチャット上で完結できるようにする。また、情報検索や書類作成を自動処理する「AIエージェント」は、工程遅延リスクの検知や日報の自動生成に対応する。すでに導入されている「黒板AI作成機能」「豆図AIキャプチャー機能」に加え、熟練技能の継承支援を目的とする「ナレッジAI」、積算業務を自動化する「積算AI」の2機能を新たに加えた。特にナレッジAIは、大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG)技術を組み合わせ、企業固有の文書や施工マニュアルを統合的に検索できる。個人の経験知を組織的知識として蓄積し、人手不足が進む現場への技術移転を容易にする仕組みとなっている。
成長著しい建設DX市場と同社の立ち位置
アンドパッドが提供する「ANDPAD」は、2016年の開始以来、利用企業が23万社を超え、登録ユーザー数は68万人規模に達している。2024年にはARR(年間経常収益)100億円を突破し、国内建設マネジメントクラウド市場でシェア首位となった。同社はこの基盤を活かし、蓄積された活動データをAI活用の資源とすることで、建設現場の知見をデジタル上で再構成し、効率化から経営分析までを一貫して支援する構想を描く。国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)では、主力製品が「令和6年度推奨技術」に選定されており、政府のDX推進政策とも連動した取り組みと位置づけられる。
担い手不足と技術継承が導入の背景
同社がAI事業を新たに立ち上げた背景には、慢性的な人材不足と技能継承の難航がある。高齢技術者の退職が相次ぐ中、現場ノウハウの属人化が顕在化し、施工の標準化や判断の迅速化が課題となっていた。アンドパッドはこれまで施工管理アプリやBPOサービスを展開してきたが、累積データをAI学習に転用する体制を強化することで、知見のデジタル資産化を狙う。「ANDPAD Stellarc」はこうした課題への包括的な回答として企画されたもので、社内のプロジェクトチームには大手ゼネコン出身者やAI研究者が多数参加している。
一方で、建設DX市場ではソフトウェア業者や異業種からの参入も拡大している。競合他社も現場支援AIを応用した製品開発を進めており、アンドパッドの優位は業界特化のデータ量と現場対応力にある。関係者の間では「業務知見とAI技術を統合したモデルケースになり得る」との見方がある。
社内外からの視点と専門家の見方
同社関係者は、AIアシスタント機能の開発に携わったAIエンジニアについて「業務の専門性を理解しながら開発を行う体制に強みがある」と説明する。 一方、業界アナリストは「AI導入は単なる自動化ではなく、判断の標準化を通じた品質向上に寄与する」と分析する。労働人口が減少する中では、AIが日常業務を支え、人が創造的作業に集中できる環境づくりが求められており、今回の取り組みはその実証場となる可能性があると指摘される。
群知能構想と今後の展開
アンドパッドは、複数のAIエージェントを自律的に連携させる「群知能(Agentic AI)」構想を今後の成長軸に据える。AIが建設プロセス全体を俯瞰し、仮想的に協調しながら課題を解決する仕組みを整えることで、経営層の意思決定支援やリスク予測にも応用する考えである。名称に含まれる「Stella(星)」と「Arc(建築)」には、建設とAIの融合による新たな構造を象徴する意味が込められている。社内ではプロダクト改良を1カ月単位の短期開発サイクルで進める体制を敷き、実装速度を高めている。
今後はAIソリューション事業の拡大に合わせて、AIエンジニアや営業職の採用を強化する。また、クラウド録画サービスを提供するセーフィーなど他社との協業事例も生まれており、同社は「オープンなエコシステムを通じてAI運用の裾野を広げる」としている。業界関係者の間では、設計・施工・管理の各段階をAIが連携して支える次世代体制がどこまで実現するかが焦点となりそうだ。