イオンリテール株式会社中部カンパニー(愛知県名古屋市)は2025年11月18日、近畿日本鉄道株式会社(大阪府大阪市)および福山通運株式会社(広島県福山市)と連携し、大阪市内で製造したパンを三重県名張市まで鉄道とトラックを組み合わせて輸送し、イオン名張店で販売する試みを実施すると明らかにした。20日と21日行われる予定だ。近鉄の「伊勢志摩お魚図鑑」車両の折り返し回送区間を活用する。
この取り組みは、イオン名張店のリニューアルオープンに合わせた協働企画として位置づけられている。通常は貨物を積まず回送される車両を物流輸送に活用し、輸送の効率化と地域店舗の品ぞろえ拡充を狙う。三社は、トラックドライバー不足や二酸化炭素(CO₂)排出削減といった社会課題への対応を意識した実証的な意義も強調している。
伊勢志摩お魚図鑑車両の折り返し区間を活用
鳴門屋製パン株式会社(大阪市生野区)の工場で焼き上げたパンを、福山通運の今里支店から大阪上本町駅までトラック輸送し、その後、近鉄が運行する「伊勢志摩お魚図鑑」車両の折り返し回送列車(松阪行き快速急行の先頭車両)に積み込み、名張駅まで鉄道輸送する。名張駅からはイオンリテール中部が店舗まで搬送し、当日の午前11時ごろに店頭に並ぶ。この車両は、伊勢から大阪市内へ鮮魚を輸送する行商人専用列車として知られ、一般乗客は乗車できない。大阪上本町駅着後の折り返し区間では通常空のまま回送されていたが、今回の施策により初めて物流用途に転用される。
地域未販売商品の流通促進へ
今回輸送するのは、大阪市内を中心に販売されているパンで、普段は三重県では販売されていない。名張市内で販売することにより、地域住民に新たな購買機会を提供する狙いがある。イオンリテール中部によると、終着地である松阪市周辺の店舗でも将来的な販売を見据えている。近鉄にとっては、これまで物流用途として活用されていなかった回送列車の収益化を図る試みであり、同様の有効活用を今後も検討する方針だ。福山通運にとっては新たな輸送機会の確保に加え、鉄道輸送との組み合わせによる効率的な配送モデル構築が課題解決の糸口になるとみられている。
貨客混載の取り組みが広がる鉄道業界
鉄道を利用した物資輸送の分野では、すでにJR東日本が2026年3月から荷物専用新幹線を運行予定であり、盛岡新幹線車両センター〜東京間で最大17.4トンを輸送すると発表している。新幹線を活用した荷物輸送は駅間を高速・大量に結ぶ新しい物流モデルとして注目される。JR東日本やJR九州、JR東海なども、新幹線や特急列車を使った即日配送サービスを展開しており、鉄道輸送を地域物流網の一部として再編する動きが各地で見られる。こうした貨客混載の流れが広がるなかで、今回の近鉄の取り組みも中距離輸送における新たな実践例といえる。
近鉄・イオン・福山通運の協働体制
イオンリテール中部は、中部地区を中心にスーパーマーケット事業を展開しており、生活圏の広域連携や地産地消モデルの構築に力を入れている。近鉄との連携はこれまでも物流面や観光促進などで行われてきた。近鉄は1963年から行商専用鮮魚列車の伝統を引き継ぎ、地域輸送の独自モデルを形成してきた経緯がある。
一方、福山通運は全国規模のネットワークを持ち、荷主企業の拠点間輸送を担う。今里支店からの集荷で鉄道輸送に接続する形を構築し、運転手の稼働を抑えながら安定した当日配送を実現する。3社ともに持続可能な物流網の形成を共通の目標に掲げており、各社の得意領域を生かした棲み分けも明確だ。自動車輸送に依存する国内物流では、長時間労働是正と運転手不足の深刻化が進む「2024年問題」以降、代替輸送手段の確保が急務となっている。鉄道輸送を組み合わせることで、長距離区間のトラック稼働を減らし、CO₂排出量の削減にもつながる効果が期待される。
イオンリテール中部と近鉄、福山通運は共通して、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」、11「住み続けられるまちづくりを」、13「気候変動に具体的な対策を」を企業行動方針に掲げる。今回の実証は、これらの社会目標に即した実践事例と位置づけることができる。
地域物流モデルの次段階へ
鉄道会社と小売業、物流企業の協働による今回の試みは、地域単位での物流再構築に向けた実践的な提案といえる。これまで回送として扱われてきた区間を輸送用途に切り替える発想は、都市間の短時間配送に適用可能性がある。関係者の間では、店舗リニューアルや観光列車との連携を軸に、付加価値を生む地域輸送の形をどう整備するかが今後の焦点になるとみられている。次の段階では、松阪近郊の店舗網や季節商材などを含めた持続的な物流運用が議論の中心になるだろう。