セールスフォース・ジャパンは27日、AIエージェントプラットフォーム「Salesforce Agentforce」の活用事例を公表した。中古住宅のリノベーションを手掛けるスクールバス空間設計(大阪市中央区)の代表取締役、田中将司氏が登壇し、AIエージェント導入により、限られた人員で問い合わせ対応の処理量を大幅に引き上げる構想を示した。
スクールバス空間設計は「中古住宅+リノベーション」を軸に、物件探しから資金計画、設計・施工、デザインまでを単一の窓口で完結させるワンストップモデルを構築している。顧客は一つの接点で住まいづくりを進められる半面、窓口側には不動産、建築、住宅ローンをまたぐ横断的な知見が求められ、リード対応の難度が高まっていた。
未対応リード3000件、年8.1億円の機会損失
スクールバス空間設計は公式ウェブサイトなどで「中古+リノベーション」の資料ダウンロードを提供し、メールアドレス入力を必須にすることで見込み客(リード)情報を蓄積してきた。その結果、蓄積したリードのうち3000件が営業フォローに回せていない状態にあることが判明した。インサイドセールス担当は1人にとどまり、「誰に、いつ、何を提案すべきかを判断しきれない状態」に陥っていたという。
未対応リードがもたらす機会損失額は、年間8.1億円に達すると試算される。このまま放置すれば、2030年時点の累計機会損失は30億円規模に膨らむ見通しも示された。資料請求件数が事業成長とともに増加する一方、営業フォロー体制が追いつかず、受注機会が未処理のまま積み上がる構図だ。田中氏は「成長する裏側で課題が積み上がっていた」と語り、リード対応の抜本的な見直しが急務だったと振り返った。
同社の事業モデルは、中古住宅を取得したうえでリノベーションを施すことで、住まいの選択肢を広げる点に特徴がある。新築の注文住宅は土地・建築費の制約から価格が高止まりしやすく、建売住宅は立地や間取りの選択肢が限定されがちだ。これに対し、中古+リノベでは相対的に価格が安定した中古物件を取得し、間取りや内装デザインを好みに合わせて改変できる余地が大きいと説明する。
一方で、物件探し、不動産取引、設計・施工、ローン相談といったステップごとに異なる事業者が関与しやすく、顧客が複数の窓口とやり取りを重ねるうちに情報が分断されるリスクも大きい。スクールバス空間設計は、この分断を埋め、一連のプロセスを一体で支援するワンストップ体制を打ち出している。
ワンストップ体制を専門分化で補強
グループの体制では、スクールバス空間設計がリノベーションの設計・施工を担い、グループ会社のスクールバス不動産がリノベーション適性を踏まえた物件選定を担う役割分担を敷く。設計チームと不動産仲介が連動することで、「この物件ならこう変えられる」といった具体的な改装イメージを、物件紹介の初期段階から提示できる点を強みとする。
事業領域はワンストップだが、組織構造としては不動産、設計、施工などの機能を独立した法人として切り分け、それぞれに専門性とサービス品質を追求する枠組みをとる。田中氏は「なんでも屋として広く浅く扱うのではなく、専門性を束ねてワンストップを実現する」という方針を示した。
店舗網は2017年の大阪市中央区での創業を起点に、2019年に京都、2020年に神戸、2021年に堺、2023年に東京と出店を重ねてきた。2025年には福岡への進出を予定し、2026年12月には東京2号店の開設計画も掲げる。各店舗にはカフェを併設し、コーヒーを楽しみながら実例や素材、インテリアを体感できる空間づくりを進めている。日常的に来店しやすい場を整えることで、リノベーションのアイデアや将来像を具体的に描いてもらう狙いだ。
ただし、顧客接点が拡大するほど、リード対応の負荷は増す。問い合わせや資料請求、来店予約など、多様なチャネルから寄せられる関心を一人のインサイドセールス担当だけで追い切ることは難しくなっていた。ワンストップで即時のアドバイスを提供しようとすれば、不動産の権利関係や価格相場、建築の制約条件、住宅ローン制度など、3領域にわたる知識が必要となる。こうした知見を兼備した人材を多数採用・育成するのは現実的ではないとの認識が、AIエージェント活用の土台になっている。
役割分担はどこまで
今回の枠組みでは、「Salesforce Agentforce」をAIエージェントプラットフォームとして導入し、増加する問い合わせを限られた人員で処理する体制への転換を図る。資料ダウンロードなどで獲得したリード情報をAgentforce上に統合し、未対応の案件を可視化したうえで、優先度付けや初期対応の自動化を進める構成だ。
AIエージェントは、過去の成約データや顧客属性、問い合わせ内容などを踏まえ、反応確度の高いリードを抽出し、適切なタイミングでメールやチャットによるフォローを行う。担当者は、AIが絞り込んだ有望リードに対して対面提案や詳細な資金相談など、付加価値の高いコミュニケーションに集中しやすくなる。これにより、処理しきれずに滞留していた3000件規模のリードを順次掘り起こし、8.1億円と試算された機会損失を圧縮する狙いだ。
問い合わせ量の増加は、同社が計画する店舗網の拡大とも連動する。2026年12月に予定する東京2号店の開設をはじめ、拠点数の増加に伴い、ウェブ経由の資料請求や来店予約は一段と増える公算が大きい。AIエージェントによる初期対応や優先度付けの自動化は、人員増だけでは追いつかない需要に対応しつつ、ワンストップモデルの価値を損なわないための基盤整備といえる。
リード獲得の起点は引き続き公式ウェブサイトなどの資料ダウンロードに置きつつ、その後の顧客との対話プロセスをAIエージェントと人間の担当者で分担することで、機会損失の削減と顧客体験の向上を両立する構図だ。スクールバス空間設計の事例は、住宅・不動産のように意思決定プロセスが長期に及ぶ分野でも、AIエージェントがリード対応のボトルネック解消に寄与し得ることを示す象徴的なケースとなりそうだ。
