株式会社博報堂(東京都港区)と株式会社ビザスク(東京都目黒区)は14日付で資本業務提携契約を結んだ。専門家の観点や判断軸、思考プロセスを学習させたAIサービス「エキスパートAI」の共同開発を中核に据え、AIによる分析とリアルのエキスパートの知見を組み合わせる。事業拡大や新規事業開発など、企業の高度な意思決定プロセスを一貫して支援する体制を構築する。
共同開発するエキスパートAIは、ユーザーがテーマを入力すると、市場調査や競合分析から戦略立案の示唆提示までを一気通貫で自動的に行う構想だ。ビザスクのエキスパートが持つ業界特有の常識や視点と、博報堂が培ってきた意思決定の思考構造化のノウハウおよびAIエンジンを組み合わせる。AIが業界の前提知識や市場の常識を担い、個別企業の状況に応じた深い洞察や最終的な意思決定は人間の専門家につなぐ設計とし、初期分析の結果からエキスパートインタビューの要件整理、適切な専門家とのマッチングに至るまでを一連のプロセスとして支援する。
ビザスク80万人超基盤
ビザスクは国内外で80万人超のエキスパートネットワークを抱え、上場企業を中心とする大企業向けに知見マッチングサービスを展開している。東証プライム上場企業の4社に1社が導入しているといい、年間のインタビューマッチング支援件数は約12万件に上る。こうした大規模な知見データベースやマッチング実績が、エキスパートAIに業界横断の前提知識と多様な視点を与える基盤になる。
資本面では、代表取締役CEOの端羽英子氏が保有するビザスク株式4万株を博報堂に譲渡し、博報堂はビザスクの発行済み株式(自己株式を除く)の0.43%を保有する少数株主として参画する。経営権に影響を及ぼさない水準にとどめつつ、長期的な協業関係を見据えた資本参加と位置づけられる。
端羽氏は、ビザスクがすでに進めている生成AI活用の具体例として、専門家インタビューにおける事前の要件整理や、実施後のインサイト抽出をAIが支援する機能を紹介した。さらに、条件に合致する専門家候補をAIがスコアリングし、適合度の高い候補者の初期リストを提示する「AI Scout」や、正社員採用向けに候補者をレコメンドする機能「ビザスクdirect」など、人材・知見のマッチング領域でAI活用を進めていると説明した。今回の資本提携は第三者割当増資ではなく、創業者株の一部譲渡によって実現しており、既存株主構成への影響を抑えながら、博報堂との協業関係を強めるスキームとした。
業務面の提携は、エキスパートAIの共同開発にとどまらず、両社の強みを生かした新サービスの開発を継続的に進める内容も含む。ビザスクのエキスパートネットワークと、博報堂のマーケティング・ブランド戦略の知見やAI関連サービスを組み合わせ、既存顧客に対する追加提案や、新たな顧客層の開拓を狙う。双方の顧客基盤を相互に活用し、共同でサービスの販売・提供を推進していく方針だ。
博報堂HCAI連携進む
提携の背景には、生成AIの普及で情報収集や初期分析にかかるコストと時間が大幅に低下した一方、誰もが類似の情報・分析結果にアクセスできるようになり、差別化につながる意思決定を行うためには専門家の知見や独自の思考プロセスが一段と重要になっているという問題意識がある。企業が新規事業や新市場への参入を検討する場面では、「何が分からないのかが分からない」という状態に陥ることが多く、適切な問いの設定や仮説構築自体がボトルネックになりやすいとみている。
博報堂は、博報堂DYグループ横断のAI専門家集団「HCAI Professionals」を組成し、人間の意思決定や暗黙知をAIで構造化・可視化する取り組みを進めている。次世代型クリエイティブ組織「CXクリエイティブ局」では、BtoB営業現場を想定した商談シミュレーションツール「B2Bディープインサイト with AI」や、AIで生成したペルソナによって生活者の意思決定を再現する「バーチャル生活者」などを開発し、企業のマーケティングや営業活動を支援してきた実績がある。今回の協業では、こうした意思決定プロセスのモデリング技術を、ビザスクが持つ専門家知見の構造化と結び付けることで、企業の戦略立案を高度化する狙いがある。
エキスパートAI連携設計
エキスパートAIは、新規事業開発や新市場参入、マーケティング戦略立案などに取り組む企業の担当者を主な利用者として想定している。BtoC向け事業だけでなく、技術・製造・インフラなど、情報の専門性が高いBtoB領域にも対応し、産業構造やバリューチェーン、規制環境などを踏まえた分析を支援する構想だ。初期段階ではAIが業界構造を踏まえた論点整理やリスク要因の抽出を担い、その上で、ビザスクのネットワークからふさわしい専門家を選定し、インタビューやディスカッションに接続する仕組みを想定する。
両社は今後、AIによる自動分析と、専門家インタビューによる定性的な洞察を往復させることで、仮説検証サイクルの高速化を図る。データや資料に基づく定量的な分析と、現場の経験知や業界特有の慣行といった定性的な情報を組み合わせることで、経営や事業開発における意思決定の精度向上や、検討プロセスの高度な可視化につなげる考えだ。
資本・業務両面の提携を通じて、博報堂はクライアント企業に対するコンサルティングやマーケティング支援の領域を拡張し、ビザスクはエキスパートネットワークの価値をAIで再定義することで、新たな収益源とサービスモデルの確立を目指す。生成AI普及後の「ポスト生成AI時代」を見据え、データと人間の知見をどう組み合わせるかが企業競争力の分岐点になるとの認識を共有し、その解の一つとしてエキスパートAIの共同開発に踏み出した格好だ。
