大阪・関西万博の閉幕後、関西の観光・サービス業を中心に「万博特需の決算反動」が表面化している。大阪メトロ中央線は夢洲方面で大幅な減便に踏み切った。ホテルの客室稼働率や百貨店売上にも下押しが出ている。地元はIR開業も見据え、需要の定着策を急ぐ構えだ。こうした変化は、万博で膨らんだ需要を平時の生活・観光需要へ接続できるかを左右する。
関西の大手私鉄の2025年4~12月期連結決算は、万博とインバウンド需要の増加を追い風に、阪急阪神ホールディングス(HD)など3社が4~12月期として過去最高益を記録した。各社は万博で得た人流を、閉幕後も観光や日常利用にいかに定着させるかを課題に据える。70年大阪万博後の長期低迷の反省を踏まえ、地元政財界では「成功を一過性で終わらせない」との危機感が強い。
大阪メトロ夢洲で減便
閉幕後の変化を象徴するのが、万博会場の夢洲へつながる交通の運用だ。4月中旬、一般の乗客がほぼいない大阪メトロ中央線の列車が夢洲に到着し、車内に「夢洲、終点です」とアナウンスが流れた。
同線は会期中、来場者の輸送を担ってきたが、閉幕後は利用が急減し、大幅に減便した。
現在、夢洲付近での利用者の中心は、万博施設の解体工事や隣接地のIR工事に関わる作業員だという。
人流の性格が「イベント来場」から「工事関連」に置き換わった格好で、交通事業者にとっても需要の質が変わりつつあることを示す。
私鉄3社が4〜12月最高益
万博期の需要の大きさは、交通各社の決算にも表れた。
関西の大手私鉄の2025年4~12月期連結決算では、万博や訪日客需要の増加を背景に、阪急阪神HDなど3社が同期間として過去最高益を記録した。万博特需が人流を押し上げ、運輸・観光関連の収益を支えた構図だ。
ただ、閉幕後は「万博特需の決算反動」が避けにくい。各社にとっては、万博で一時的に増えた利用を、通勤・通学、日常の外出、観光需要として継続的に取り込めるかが問われる。関西の政財界で同趣旨の発言が繰り返されるのも、70年万博後の経験則があるためだ。
ホテル稼働と百貨店に変調
宿泊・小売にも反動が出ている。帝国ホテル大阪(大阪市)は、万博期間中の客室稼働率が65%ほどで推移していたが、1月には3割台後半まで落ち込んだ。
同社幹部は、今後は宴会事業に注力することや、海外の旅行代理店との契約拡大で収益を上げる考えを示している。
百貨店では、日本百貨店協会によると2月の売上高が主要都市で大阪と札幌だけ前年同月を下回った。大阪の百貨店は、消費意欲が底堅い富裕層向けビジネスを強化する。
阪急うめだ本店(大阪市)は3月、高級ブランド品を集め、個室などを充実させた「HANKYU LUXURY」を新装オープンし、広報担当者は「VIP客の幅をどれだけ広げられるかを意識している」と話した。
関西GDP比率低下の反省続く
今回の反動局面が注目されるのは、関西が過去に万博後の失速を経験しているからだ。
70年万博閉幕後、関西経済は半世紀近く低迷したとされる。関西経済は当時、国内総生産(GDP)の約20%を占めたが、その後に落ち込みが激しく、近年は15%程度で推移している。万博関連工事の押し上げ効果が剥落する中で、オイルショック、企業の製造拠点の海外流出、バブル崩壊が重なり、東京一極集中の進行で「一人負け」の状況が続いた。
一方、近年の関西は万博に向け回復基調を強めてきた。訪日客需要の拡大に加え、万博と30年秋のIR開業を見据えた設備投資や都市開発が活発化していた。背景には、人手不足と建設コスト上昇が投資や運営のブレーキとなり、日中関係悪化と中東情勢の緊迫化が先行き不透明感を強めているという事情がある。需要面では、中国政府による昨年11月の日本への渡航自粛要請以降、中国人団体客が急減した。
中東緊迫化が需給波及
外部環境の変化は観光需要だけでなく、企業活動の供給側にも及ぶ。
りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は中東情勢の影響を懸念し、物流や原材料の供給など広範囲に影響が出る恐れがあると指摘した。企業の在庫が枯渇し、物流自体が止まりかねない事態を挙げ、民間企業だけで対応できるものではなく政府が前面に立って景気の落ち込みを抑制すべきだとの見方を示した。日本総合研究所の西浦瑞穂氏も、中国政府の自粛要請と中東危機が重なった点を踏まえ、関西は中国人旅行者のシェアが全国を上回ることから、訪日客需要への下押し圧力を厳しくみておく必要があると述べた。
関西の訪日客消費額の対域内総生産(GRP)比率は2%近くに達し、地元経済に占める影響力が強まっている。観光産業は国際情勢など外部ショックに脆弱であるため、多様な国・地域からの誘客を強化し、需要の偏りを抑えることが重要になる。
万博閉幕後の交通減便、宿泊稼働の低下、百貨店売上の鈍化といった反動局面は、IR工事需要など新たな人流にどう接続し、観光・サービスの需要を平準化できるかという流れの中に位置づく。
