トヨタ自動車は4月1日付で、新社長・CEOにCFO(最高財務責任者)出身の近健太氏が就任する。財務・経理畑からトップに立つのは同社では異例の人事だ。影響はトヨタ単体にとどまらず、大企業を中心にCFO→CEO人事が目立つ流れとも重なる。資本市場や資金調達環境の変化が、経営トップ像の更新につながる可能性がある。
今回の人事でトヨタは、財務戦略を担ってきた人材を経営の最終意思決定の立場に据える。CFOは資金調達や投資判断を管理し、投資家向け広報(IR)や銀行との窓口を兼ねることも多い。単なる「金庫番」ではなく、企業価値の最大化を意識した資本政策の中枢を担う役割であり、近氏の就任はCFO→CEO人事の一例として位置づけられる。
CFO登場件数が増加
上場企業の開示資料を対象に、「代表取締役の異動」「役員人事」に関する文書で「CFO」または「最高財務責任者」の文字列を含む件数を集計すると、2020年前ごろから大きく増えている。
CFOという役割や呼称が、日本企業の中で浸透してきたことを示す動きだ。CFOが社長やCEOに昇格する例も最近の報道で目立つが、実数を正確に比較した報告は見当たらず、全体像は見えにくいとされる。
それでも、CFO経験者がCEOへ昇格した件数をAIの力を借りながら目視で集計したところ、2010年代まではまばらだったのに対し、2021年以降は少なくとも毎年5件ずつ継続的に昇格が確認できるという。
直近10年でCFOが一般化し、その母集団から一定数がCEOに上がる構図が成立しつつある。
CFOの役割が経営中枢へ
CFOは企業の財務戦略、すなわち企業価値の最大化に向けた資金調達や投資判断を管理する責任者とされる。IRの責任者や銀行対応の窓口を兼ねることもあり、社内外の資本提供者との調整機能を担う。
日本で「CFO」という呼称が初めて現れたのは1995年のソニーとされる一方、それ以前も「財務担当」「財務(資金)部長」といった役職が部分的に近い役割を負っていた。
また、経営管理部門の傘下に財務やIR部門があり、担当役員がCFOと名乗っていないケースもある。業種にもよるが、財務畑出身のトップが必ずしも珍しいわけではないという。
ただ、近年は「CFO」を明示的に経験した人物がCEOに就く事例が、より可視化される形で増えつつある。
守りと攻めの財務起用
財務に精通した人材がトップに任命される理由として、一般的にはコスト意識を強めて「守り」を固める狙いが挙げられる。
過去の例では、1983年10月13日付の日本経済新聞朝刊が、日本能率協会の畠山芳雄理事長の発言として「1973年の第一次オイルショック後、しばらくは経理、財務畑出身の社長が目立った」と伝えている。競争環境の変化を合理化・効率化で乗り越えるには財務知識が必須になるという文脈だ。
一方で、規律ある「攻め」のために財務人材を起用するケースもある。資源の再配分や投資判断、資金調達を伴う成長戦略には財務知識が必要となるためだ。
たとえば丸紅では2008年から社長を務めた朝田照男氏が、大手商社として初の財務畑出身トップとされる。双日でも2012年にCFOから社長へ昇格した佐藤洋二氏が、同社で初の財務畑出身トップだった。両社は財務面に不安を抱えていたが、社長交代後に不採算事業を縮小し、捻出した資源を成長分野に投資したことで一定の成長を上げたとされる。
投資家対話と金利上昇
近年CFO経験の重要性を押し上げる環境変化として、記事は2点を挙げる。1つは「投資家との対話」が上場企業にこれまで以上に求められるようになったことだ。東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コードの策定、経営のサステナビリティ開示、資本コストを意識した経営の要請などを受け、IRの重要性が増している。アクティビスト(物言う株主)と対等に議論する局面でもCFOの知見が必要になるという。
運用会社のファンドマネジャーは、CFOから内部昇進したCEOについて「全社の数字の理解があるため立ち上がりも早く、投資家と対話してきた経験から株式市場の信頼を勝ち取る可能性も高い」と話した。
もう1つは「金利の上昇」で、近鉄グループホールディングスは2024年に財務畑の若井敬氏が社長に昇格する人事を発表している。当時の小林会長は理由として「金利が上昇局面に転じ、為替相場も動いている。いまは財務面での危機感が強い」と説明した。金利上昇は割引率を押し上げ、投資案件の価値を低下させうるため、低金利環境が終わりつつある日本では投資判断の難しさが増すとの指摘もある。
トヨタのCFO出身トップ起用は、企業が「現場叩き上げ」のCEO像から、資本市場・資金調達環境を強く意識する経営体制へ重心を移す流れの中に位置づけられる。
